・CDSが爆発するのはこれから
・『恐慌第2幕 世界は悪性インフレの地獄に堕ちる』朝倉慶
・『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』朝倉慶、船井勝仁
世界経済が不況に陥り大恐慌(1929年)へと転げ落ちた1920年代、ヨーロッパではファシズムが台頭した。オルテガが『大衆の反逆』(La rebelión de las masas)を著したのは1930年のこと。大衆(las masas)という心理的情況を「慢心しきったお坊ちゃん」に譬(たと)え、無責任な群衆心理を唾棄すべきものとして糾弾した。
「大衆」(マス)はマスメディアを介したマスコミニュケーションによって、より一層大衆化されているといってよい。なぜなら心理的情況は情報がつくり上げるものであるからだ。そして社会の至るところに溜まったストレスが「苛立(いらだ)ち」へと変換され、無責任な攻撃性が高まった時、時代はファシズムへと一気に傾斜する。
21世紀となった今、世界経済は不況に喘ぎ、各国では保守主義、国粋主義がはびこりつつある。
朝倉慶の名前は、クレジット・デフォルト・スワップ債に警鐘を鳴らす記事で初めて知った。
CDSの危機を指摘する人はいたものの、具体的に論じた人を私は知らなかった。マネーの動きを知ることは、世界の仕組みを知ることでもある。金融マーケットには実体経済(ODA)の4倍以上の規模になっているといわれるが、レバレッジ(テコの原理)を利かせたギャンブルのような世界である。その実態はペーパーマネーという幻想によって築かれているに過ぎない。
CDSとは一種の債務保証のようなものだ。これがデリバティブ(金融派生商品)として売買されるようになった。
問題は図のように急拡大したCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場なのです。詳しくは後述しますが、CDSは金融商品の元金を保証する保険のようなものです。その想定元本は、現在でも5400兆円と世界のGDPに匹敵します。CDS市場には株式市場や債券市場、為替市場といって公の市場はありません。相対(あいたい)取引です。それゆえCDSの売り手、すなわち保険を引き受けたほうは、損害が出たら保証しなければならないわけですが、この売り手がそれに見合うだけの資金を持っているのか公開されていないのです。いわばいつパンクするかわからないわけです。
【『大恐慌入門 何が起こっているか? これからどうなるか? どう対応すべきか?』朝倉慶〈あさくら・けい〉(徳間書店、2008年)以下同】
直訳すれば「信用(クレジット)、債務不履行(デフォルト)、交換(スワップ)」である。ま、早い話が企業の倒産を賭けの対象にしているようなものだ。今時の言葉であれば、さしずめ「企業賭博」といったところ。
リスクを引き受ける機関投資家にはプレミアム(保証料)が入ってくるという仕組みだ。景気がよければ企業の倒産リスクは殆どないわけだから、その儲けたるや想像も及ばない。
2007年7月末、金融マーケットをサブプライム・ショックが襲った。これは低所得者(サブプライム)の住宅ローンをMBS→CDOと証券化したもので、要は幕の内弁当の中に腐りかけたおかず(サブプライム証券)を忍ばせていたという話だ。これによって世界金融危機の幕は切って落とされた。
今回の全米の住宅バブルは、日本の比ではありません。その上昇期間、さらにはそれに絡んで数々の金融商品が作られ、サブプライムローンですら、その一つに過ぎないのです。【73年間にわたって上がってきて、2006年に天井を打ったこのバブルの崩壊は、まだ序章段階にしかすぎません。今後数十年にわたって下がり続けるのは必至なのです】。バブル崩壊の歴史を見れば、疑問の余地のないところです。
住宅バブルが続いているうちは、転売を繰り返すだけで儲けることが可能だった。ところが信用収縮(クレジット・クランチ)が始まると債務不履行の連鎖が生じる。
おわかりだろうか? アメリカが生んだ金融工学は結局、取引(売買)を可能にするためにありとあらゆるものを証券化してしまったのだ。一世を風靡(ふうび)したアメリカの投資銀行はその後、殆ど倒産した。
2008年9月、今度はリーマン・ショックが襲いかかった。投資銀行の名門リーマン・ブラザースが破綻したのだ。なぜベア・スターンズには公的資金が注入された(同年3月)のに、リーマンは見放されたのだろうか? ここに本書の白眉がある。
朝倉によれば、アメリカ政府が公的資金を注入している企業の全てがCDSを抱えているというのだ。つまり破綻すれば、企業が保有しているCDSが明らかとなり、CDS市場が暴落してしまう。CDSは金融界の大量破壊兵器なのだ。一つの地雷を踏んでしまえば、あっという間に世界は焼け野原と化す。経済用語の「信用」とは「インチキ」の異名である。
債券の信用度が低下すると、自動的に商品(コモディティ)の価値が上がる。マネーは先物市場に集まる。こうしたこを予測して世界の資源マーケットでは群雄割拠の様相を呈しているそうだ――
さらにこの間(9.11テロの翌年である2002年から2008年まで)、争いの元となるべき資源の寡占化を着々と進め、水、穀物、石油、石炭、鉄鋼石をはじめ、主要資源の権益はしっかりと押さえられました。鉄鋼生産に不可欠な代表的な資源である鉄鉱石を例にとると、現在ブラジルのヴァーレが39.6%、英国と豪州のリオ・ティントが24.4%、同じく英豪のBHPビリトンが14.2%、と3社で8割を握っています。ビリトンがリオ・ティントに買収交渉をかけていましたが、世界経済の減速もあってか、中止になりました。しかし、このような買収交渉や合併は日本国内では独禁法違反で考えられませんが、世界規模では堂々と行われているのですから、どうにもなりません。ますます希少化する資源は全く手の届かないところへ行ってしまっています。そうは言ってもわれわれは買うしかなく、売る側はいつでも買い手を窮地に陥れることができるのです。まさに首根っこをつかまれたとはこのことです。
経済大国となった中国は既にアフリカへ莫大な投資をしている。それに比べて日本の政治レベルは小学生並みで、何の手立ても講じていない。バブル崩壊後は骨抜きとなった感が強い。
世界の商品先物相場は1730年の大阪堂島米会所から始まった。先物取引とは生産者を守るためのものである。
例えば数年前に原油高騰で漁船が漁に出られない事態が生じた。この場合、漁師組合などで資金を募り、先物相場で原油を買えばいいのだ。原油相場が下がれば損失となるが、その分は漁でヘッジできる。
資本主義経済が続く限り、大衆消費社会は維持される。消費者を保護するためにも、ありとあらゆる商品の先物相場を設けるべきだ。そうしておかないと、国民の資産は金融機関を経由して荒れ狂う世界マーケットの海へ流出してしまうだろう。