・『史上最大の株価急騰がやってくる!』増田俊男
・『空前の内需拡大バブルが始まる』増田俊男
・『敗者の論理 勝者の法則』増田俊男
・『日本経済大好況目前!』増田俊男
・『日本大復活! アメリカを救う国家戦略が黄金の時代の扉をひらく』増田俊男
・エンロン破綻という経済戦略
まず、以下の記事をご覧いただきたい――
有罪と確定したわけではないが、出資者との間にトラブルが起こっているのは確かだ。出資すべきでないのは当然だが、有料情報の類いも疑って掛かるべきだろう。
それでも私は増田俊男の著作を読む。多分、最新刊以外は全部読んでいるね。マクロ経済の仕組みやファンダメンタルを知ることができるからだ。個人的には長谷川慶太郎よりも実力が上と見ている。
長らく「なぜ、基軸通貨がドルなのか?」という疑問を抱えていたが、それを解消してくれたのは、『史上最大の株価急騰がやってくる!』(ダイヤモンド社、2005年)だった。初めて読んだ増田本である。これ以降、のめり込むようにして読み漁った。
増田は自分自身がマネーになったつもりで、マネーの動きを予測する。時にその予測がマネーの意志をピタリと当てることがある。増田は、9.11テロやサブプライムショックを正確に予言してみせた。
アメリカは経済政策として戦争を行っている(アメリカ軍国主義が日本を豊かにした/『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー)。そして、定期的に大企業が破綻しているが、これまた経済戦略の一環であった――
日本からの資金流入がなければアメリカ経済は成り立たない
アメリカは、海外から資金を呼び込んで自国の経済を活性化させるだけではない。入ってきた資金は、自分たちで使ってしまって返さない。
そんなことができるのかと思うかもしれないが、実際に2000年に日本などからアメリカに投資された資金はアメリカ市場で消えてしまった。
次に、そのカラクリについて説明することにしよう。
クリントン政権終盤の2000年、ITバブルははじけ、アメリカは景気後退に向かい始めた。2001年に入ってブッシュ大統領は就任するとともに大規模減税を打ち出したが、景気はいっこうに回復の兆しをみせなかった。NASDAQも下降を続けた。
しかし、低金利政策と住宅取得時の減税によって、住宅需要が刺激され、株式市場のITバブルが完全にしぼまないうちに、住宅バブルが始まった。
住宅を買うときにはローンを組むことになる。この住宅ローンの担い手は、連邦抵当金庫(FNMA、ファニーメイ)や連邦住宅金融抵当公社(FHLMC、フレディマック)や政府抵当金庫(GNMA、ジニーメイ)といった住宅金融公社である。
これらの公社は、日本の住宅金融公庫と違って、住宅購入者に対して直接投資するわけではない。民間銀行の住宅ローン債権を買い取るかたちになっている。
これら公庫の原資は、住宅抵当債権のかたちで主に海外から調達されるが、その最大の出資者が日本の金融機関である。すなわち、ファニーメイやフレディマックといった住宅金融公社は、アメリカの景気を支えるための資金を日本から吸い上げるポンプの役割を果たしていたのである。
当時日本の銀行は、国内に融資する先がなかった。上場企業はリストラや債務圧縮に取り組んでいて、運転資金を借りたい企業はあっても、前向きの設備投資資金を借りたいという企業はほとんどなかった。銀行は国内では国債くらいしか、運用できるものがなかったのである。
その一方、長引く不況のなかで将来不安を抱える国民は、消費を抑え、銀行預金に虎の子の資金を預けた。日本の銀行は、預金残高がふくれ上がる一方で運用先がないという状態のなかで、アメリカへの投資を余儀なくされることになった。そして、その資金はアメリカの株式市場が先行き不透明ななかで債券市場に流れ込むことになった。
債券市場では米国債のほか、堅い運用先として住宅金融公社などの債券にも日本の金融機関の資金は投資されることになった。日本人がせっせと働いて貯めたお金は、貯蓄もしないで浪費ばかりしているアメリカ人が家を買うための資金に使われたのである。
しかし、フレディマックについて、2003年6月SEC(米証券監視委員会)は粉飾決算をしている疑いがあると発表した。そしてほぼ時を同じくして、アメリカでは債券市場に入っていた資金が株式市場に流入し始めると同時に、債券バブルの崩壊が起きて、長期金利が上昇し始めた。
この流れのなかで、フレディマックが発行していたMBS(モーゲージ担保証券)は、大幅に値を下げることになった。このフレディマックの会計疑惑に関しては、同公社の幹部が交替して真相は究明されることがなかった。
日本の銀行は、ウォール街とヘッジファンドが一体化したといわれたルービン財務長官の金融政策に引き続き、またしてもアメリカに資金を巻き上げられることになった。
フレディマックのみならず、ブッシュ大統領が就任してからアメリカでは、数多くの会計疑惑が噴出した。
2001年12月には、総合エネルギー会社エンロン、光通信網大手のグローバル・クロッシング、そして2002年6月にはケーブルテレビ大手アデルフィア・コミュニケーションズ、同7月にはAT&Tに次ぐ規模の長距離通信会社ワールドコムが破綻した。
さらに、医薬品大手のブリストル・マイヤーズ・スクイブ、自動車世界第2位のフォード、通信大手クエスト・コミュニケーションズ、AOLタイム・ワーナーなどの会計疑惑も表面化する。
エンロンの破綻に関連しては、アメリカの大手会計事務所アンダーセンが、SECの調査妨害で有罪判決を受け、顧客流出により廃業を余儀なくされている。
これら一連の破綻、そして会計疑惑の噴出は、ITバブルの崩壊とその後の景気後退だけが原因ではない。これこそ、アメリカの経済戦略の一環なのである。
アメリカはドル高政策によって世界中の資金を自国の市場に集中させた。その資金でインフラ整備などを進めて今度は企業を破綻させ、金集めの役割を終えた企業が破綻すれば、日本やヨーロッパの金融機関などが投資した資金は返さなくていいことになる。そして、破綻企業がアメリカ国内に投資したインフラはそのまま残る。
相次ぐ会計疑惑で、ニューヨークダウやNASDAQなどの株式市場も大幅に下げることになった。これにより、世界中からアメリカに流れ込んでいた資金はアメリカの好況を支えた後、大幅に減価することになった。
このようにアメリカという国は、海外の資金をマーケットに取り込んでは減価させることで、かろうじて経済を維持しているのである。
アメリカは我電引水に長(た)けていた。世界中から用水路を引きマネーという水が流れ込んだ。そして、田んぼは潰してマネーだけかっさらおうという算段だ。壮大な謀略がお見事。大掛かりすぎて、大衆の視界には収まり切らない。
わかりやすく言えばこういうことだ。あるサラリーマンが1億円の借金をつくる。返済の目途が立たなくなったので自己破産した。ところが借り入れた1億円はそっくりそのまま同居していた父親に渡っていた。これを国家単位で行えば、世界中から集めた資産が国外に流出することはなくなるのだ。
振り返れば、BIS規制によってバブル経済が崩壊した。明らかに邦銀を狙い撃ちにした規制であった(増田俊男著『日本経済大好況目前!』アスコム、2005年)。その後日本経済は「空白の10年」を迎える。不況下に資金需要はない。日本人の資産(預貯金)は高い利益率を求めて海外を目指す。こうしてアメリカは、棚からぼた餅、濡れ手で粟という状況に持ってゆく。アメリカン・ドリームを支えているのは、諸外国の悪夢であった。
数日前からドルが値を下げてきた。だが、基軸通貨の地位を追われることはないだろう。ドル不信を国際会議で声高に主張する連中は、きっとドルを買い漁っているに違いない。
世界は金で動いているといえる。しかし、金融マーケットは思惑で動いているのだ。大事なのは正確な情報ではなく噂だ。経済の実態ではなく、人々の動向だ。この世界は、どれほどの欺瞞に満ちているのだろうか。
尚、増田の予言はその大半が外れていることは本書のタイトルからも明らかである。その意味では、まだ天気予報の方が正確だ。
・ドル基軸通貨体制とは/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓