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ビッグマック指数の嘘/『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義』藤巻健史

 藤巻健史ジョージ・ソロスのアドバイザーを務めた人物。まず、そんな日本人がいたことに驚いた。知らなかったよ。


 セミナーの内容を編んだものだが、話し言葉でありながら妙にわかりづらい。これは思考の明晰に問題があるわけではなく、ただ単に表現力や言葉の取捨選択の問題だと思われる。そのため、内容はいいのだが肚にストンと落ちる言葉が少ない。


 一方、投資という角度から見れば、為替オーバーレイなどの機関投資家にありがちな金融工学的志向は少なく、一般投資家にもわかりやすい内容となっている。ただし、金融マーケットをマクロな視点から分析しており、安易な「儲かる手法」は皆無である。この手の本が珍しいのは、マーケットに対する価値観、考え、戦略などが、他人の金を運用する機関投資家と、自分の金で勝負している一般投資家とではあまりにも懸け離れているためだ。


 ビッグマック指数とは、イギリスの経済誌エコノミスト』が発表した購買力平価のこと。これを藤巻は次のように指摘する――

 このマクドナルド平価ですけど、私に言わせるといろんな問題があります。一つの反論としては例えばビッグマックというのは、私は今、52歳ですけれども、52歳のアメリカ人の中年が毎日食べても別に問題ないのでしょう。しかし、私は、ビッグマックを毎日食べたらゲップが出てやっていられない。52歳のアメリカ人にとってのビッグマックと52歳の日本人にとってのビッグマックを比べるのはりんごとオレンジを比べているようなものだ、と私は思うのです。もし比べるんだったら、アメリカ人のビッグマックと私のざるそば2杯と比べろと私は言いたいですね。ざるそば2杯対ビッグマックだったら700円対2ドルでドル/円は350円のはずだ。105円とは全然違うじゃないのというのが一つの反論です。
 もう一つの反論はアメリカのビッグマックと日本のビッグマックとは根本的に商品が違うということです。アメリカのビッグマックというのはアメリカの肉を使って、アメリカのレタスを使って、アメリカの小麦粉を使って、作っているわけです。一方、日本のビッグマックというのは、小麦粉もレタスも肉も全部輸入もので作っていますよね。円が強過ぎるがゆえにこれらの原材料を非常に安く輸入できて、それだからこそ日本のビッグマックは安いんだと私は思うんですね。


【『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義』藤巻健史〈ふじまき・たけし〉(光文社新書、2003年)】


 大体、マクドナルドを持ち出すのはアメリカの思惑を代弁している場合が多い。そういや、トーマス・フリードマンも「マクドナルドがある国同士は過去に戦争をしたことがない」なあんて書いていたっけ。これはマクドナルドが平和の象徴であることを示したものではなく、アメリカの手先となった国々に与えられる勲章がマクドナルドであるという意味に他ならない。


 また、マクドナルド社が成功を収めてきたのは、ハンバーガーを売ったからではなくして、世界各都市の一等地の角地を買い占めてきたからだという指摘もある。つまり、ハンバーガー屋の看板を掲げた不動産戦略だったというわけ。まったく頭がいいよね。


 経済の尺度や指標には必ず何らかの意図や思惑が隠されている。指標に至っては、検証することすら事実上不可能だ。発表された数字を受け入れるしかない。翌月に修正されたとしても、マーケットは既に動いた後である。


 資本主義経済の恐ろしいところは、嘘に乗じた人々が金儲けをできる仕組みになっている点である。果たして株式や為替が、サンマや大根のように価格の比較判断が可能だろうか? 中々そうは思えませんな。そう考えると、やはり素人がのこのこと入っていける世界ではないだろう。