実は、将棋では、勝ったケースのほとんどは相手のミスによる勝ちである。本当のことだ。拾い勝ちという感じなのだ。テニスなども、自分の強烈なショットがダウン・ザ・ラインに決まって勝つというより、相手のミスに「救われた!」というゲーム展開が多いのではないか。
ミスには面白い法則がある。たとえば、最初に相手がミスをする。そして次に自分がミスをする。ミスとミスで帳消しになると思いがちだが、あとからしたミスのほうが罪が重い。そのときの自分のミスは、相手のミスを足した分も加わって大きくなるのだ。つまりマイナスの度数が高いのだ。だから、序盤から少しずつ利を重ねてきても、たった一手の終盤のミスで、ガラガラと崩れ去る……そこが将棋の面白いところでもあり、逆転も多く起きる。プロ同士の対戦でもそういうことで決着がついていることが多い。
【『決断力』羽生善治(角川oneテーマ21、2005年)】