何冊かのミステリを読んで肩透かしを食らった後は、自(おの)ずから昔、読んで面白かったものを本棚から取り出してしまう。ドラマに飢えた中年男の悪しき癖である。
今から20年ほど前に初めて読んだマッギヴァーンの作品だ。松本清張が苦手な私は「これこそ社会派ミステリだ!」と一読後、小躍りしたものだ。確か、会社の私設図書棚にあったものだ。その後、マッギヴァーンが物した作品は数冊読んだが、最も強烈な印象を受けたのは本書であった。
主人公は新聞記者のサム・ターレル。この理想に燃えた若者の元に密告電話が入る。ターレルが動き出すや否や、奇怪な事件が起こる。一人のいかがわしい女が殺された。その傍で清廉潔白で鳴り物入りの市政改革派の候補者が発見される。警察の捜査はそこそこで打ち切られてしまう。市政が絡んだ陰謀だった。容疑者らしき人物を発見した警官は口をつぐみ、挙句の果てには殺害されてしまう。
市の至るところが悪徳によって汚染されていた。ターレルは汚穢(おわい)を掻き分け、一人、真実に向かって進む。
20年という歳月をはさんで再び手に取ると、感動したという事実は覚えているものの、内容はきれいさっぱり忘れ去っていた。19歳の時に読んでも、38歳になって読んでも感動するというのは、私に進歩がないことを踏まえても、やはり素晴らしい作品である。派手さはないが、いぶし銀のような光を放っている。どおくまんの漫画であれば、さしずめ「シ、シ、シブイ!」といったところ。ジョン・ボールの『航空救難隊』(ハヤカワ文庫)を思わせる作風である。
謎解きではないだが、最後に大どんでん返しがある。読者が男性であれば涙を催さずにはいられないだろう。「よっ、男だねえ」という世界である。清濁併せて呑んできた一人の男が丸裸となった時、思いも寄らぬ行動をとる。それで罪滅ぼしになるとは思わないが、男を上げたのは紛れもない事実だ。