ドノ・ド・ルージュモンは『愛と秩序』(邦訳『愛について』)のなかで、二人は真実愛しているのだが、相互を愛するのではない、と説得力ある論述をしている。二人が愛するのは、愛の対象の人であるよりは愛の自覚――愛のなかにいるという状態――そのものである。愛される人は、愛する人自身が昂揚してゆくための存在として機能するかぎりにおいてのみ貴重な価値をもつのである。二人は見た目は互いに夢中になっているのだが、二人の情熱はそれぞれのナルシシズムを隠すだけのものである。情熱はひとつの幸福を約束するのだが、情熱はその幸福を、人知を超えた次元においてしかもたらすことができない。
【『エロスと精気(エネルギー) 性愛術指南』ジェイムズ・M・パウエル/浅野敏夫訳(法政大学出版局、1994年)】