古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

藤原伊織


 1冊読了。


 56冊目『名残り火 てのひらの闇II藤原伊織文藝春秋、2007年)/藤原伊織の遺作。読むのを躊躇(ためら)っていた。読んでしまえば、もう後はない。藤原伊織の過去を振り返ることしかできなくなる。恐る恐る本を開いた。そして、例の如くあっと言う間に読み終えていた。細かいことを言えば、音楽や絵画の趣味が合わない上、ことごとく鼻につくレパートリーだ。あざとさをも感じてしまう。柿島の細君も出来すぎ。部下の大原も、社長の三上も、刑事の関根までもが理想に傾きすぎている。一歩間違えると少女漫画みたいになりかねないが、辛うじて踏みとどまっているのは堀江の復讐心に否応なく魅了されるためだ。そしていつものように、気の利いたセリフがそこここに散りばめられている。コンビニ業界の詳しい内情にも触れていて、これがまた下らないビジネス書よりもはるかに面白かった。藤原伊織は本書の加筆・改稿作業の途中で黄泉路へと旅立った。合掌。