古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

社会を形成するために脳は大きくなった/『内なる目 意識の進化論』ニコラス・ハンフリー

 ヒトの脳は大きい。いや大き過ぎる。ではなぜ、身体の大きさに不釣合いなほど巨大な脳を必要としたのか。そこにどのような進化の必然があったのか――

 大型類人猿の生物学的な成功の鍵を握っているのは、明らかに社会的な知能である。こういった動物が、頭の中で物事を考え、記憶し、計算し、評価しなければならないのは、お互いどうしの付き合いにおいてである。そして社会的な知能は、彼らが手に入れた頭脳の最後の一滴までをも必要とするのである。


【『内なる目 意識の進化論』ニコラス・ハンフリー/垂水雄二〈たるみ・ゆうじ〉訳(紀伊國屋書店、1993年)】


 ゲンナリ。つまり、愛想を振りまき、おべっかを使い、ゴマをすり、他人の顔色を窺い……と社会のバランスを維持するために脳味噌はフル回転しているということか。


 まったく嫌な話であるが、確かに我々が普段考えていることの大半は「人間関係」にまつわることだ。単純化してしまえば、「何かしてくれた」「何もしてくれない」といった損得の次元であることが多い。


 しかも、だ。近代国家における教育は、勤労・真面目・協調性という価値観に支配されていて、国民を労働者か兵士――つまり現代の奴隷――に仕立て上げようと目論んでいる。そう。我々庶民は「国家の手足」だ。


 複雑な人間関係で悩むは多い。だが本質は違っていた。人間関係に悩むからこそ、脳が発達したのだ。そういや、「悩む」と「脳」の字は似ている。ヘンは「心」と「身体」の違いに過ぎない。そして「凶」の字が不安を掻き立てる。


 あ、わかった。「凶」という不安を予測できることが、人間の脳の最大の武器ってことね。武器というよりは凶器か(笑)。