古本屋の覚え書き

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アンベードカルに対するガンディーの敵意/『不可触民の父 アンベードカルの生涯』ダナンジャイ・キール

 不可触民はガンディーの欺瞞を知った。

 アンベードカルの要求に対するガンディーの敵意は、インド各地の不可触民に大きな衝撃をあたえずにはいなかった。
 全印被抑圧者会議で、ラオ・バハーズール・ラージャは、ガンディーは不可触民問題を正しく伝えておらず、会議派が初めから不可触民のために尽し、その大義を背負ってきたというガンディーの主張を激しく非難し、会議議長の名によって、ガンディーのそのような主張は“虚偽”であると明言した。
 同会議は、アンベードカルの提出した諸要求を支持し、被抑圧階級への分離選挙制度を認めない新統治は受け入れないと宣言した。インド各地で開かれた沢山の集会、会議、指導者、協会などから、ガンディーと会議派を信用するなというメッセージがアンベードカルの下に殺到した。この洪水のようなメッセージは、不可触民の代表が誰であるかを如実に物語っていた。


【『不可触民の父 アンベードカルの生涯』ダナンジャイ・キール山際素男訳(三一書房、1983年)】


 ガンディーが不可触民に示したのは、上流カーストによるアウトカーストへの哀れみ程度だったのだろう。だが、インド独立という功績によって、ガンディーの欺瞞は歴史の影に葬られてしまった。


 その後、ガンディーは聖人と化した。批判することも許されない偶像となった。真実を知っているのは虐げられた不可触民だけであった。