古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

盲目の冒険者

 ある日、ロブと連れだって、山の中に高さ50メートルを軽く超す無線塔をもっているという噂のアマチュア無線愛好家をサンタクルーズに訪ねた。無線塔は噂どおりの立派なものだった。設備を好きに使ってかまわないと、その男性は言ってくれた。ただし、塔のてっぺんのアンテナを調整しないと使えないとのことだった。マイクはその作業を買って出た。風が吹きつけるなか、ベルトもロープもなしで塔をよじ登りはじめた。前に後ろに、右に左に、1メートル以上ゆらゆら揺れながら登っていった。20メートル、30メートル、40メートル、45メートル。15階建てのビルに相当する高さだ。頂上にたどり着くと、長さ20メートルのアンテナの調節に取りかかったが、その間も無線塔は風に吹かれてメトロノームの針のように揺れ続けた。怖かった。一度でも足を踏み外せば、命はないだろう。それでも、このアンテナの角度を直せば世界のいろいろな土地とつながれるのだと思う期待が恐怖を上回った。


【『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』ロバート・カーソン/池村千秋訳(NTT出版、2009年)】


 カーソンの少年時代のエピソード。


46年目の光―視力を取り戻した男の奇跡の人生