古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

戦地で活字に飢える/『きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記』日本戦没学生記念会編

 ・戦地で活字に飢える
 ・近藤道生と木村久夫
 ・知覚の無限
 ・酔生夢死


 二十歳(はたち)前後に読んでおくべき一冊。同世代の青年が戦地で何を思い、死んでいったかを知ることができる。若者を戦場へ送り込むのは、いつの時代も老人だった。その老人を疑うことすらせずに、若き学徒は死と向き合う中で、青春の清らかさを結晶させた。


 大いなる歯車が軋(きし)みを上げ、若者を飲み込んでゆく。だが、彼等は生きた。確かに生きた。学徒の清冽さに思いを馳せる時、当時の政治家に対する怒りが沸々とたぎってくる。権力者は若者を利用する。この本すら利用することさえ可能だろう。

 新聞はいかなる新聞であっても、例えば私物の泥靴を包んでおいたぼろぼろの新聞まで読み尽してしまった。食器棚の下に誰かが投げ込んでおいた半年ほど前の内閣のパンフレットを手にした時は、ほとんど一週間も掛ってそれを読み返し読み返しした。(中略)メンソレータムの効能書きを裏表丁寧に読み返した時などは、文字に飢えるとはこれほどまでに切実なことかとしみじみ感じた。(竹田喜義 22歳)


【『きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記』日本戦没学生記念会編(東大協同組合出版部、1949年/岩波文庫、1982年)】


 彼は、活字の向こう側に何を見ていたのだろう。知識か、文化か、はたまた人の温もりか。文字への渇望は、「学ぶ」ことへの衝動であったに違いない。戦争すら、知を希求してやまない精神を抑えることはできなかった。


 前途ある青年は死んだ。殺された。敵に殺されたのではない。老いた政治家に殺されたのだ。そして老人達は美化することによって、彼等の魂まで利用するのだ。