政治テロで問題は解決できず/『永遠の都』ホール・ケイン

「人間共和」を謳い上げた名作。同じ時期にユゴーの『九十三年』を読んだが、こっちの方がはるかに昂奮した覚えがある。

「しかし、そのような役目(暴君暗殺)を引き受ける人間はです」とデイビッド・ロッシィはいった。「いかなる個人的な復讐の感情にもとらわれていないことをわきまえていなければなりません」見知らぬ男の手に握られた短刀がふるえた。
「彼は自分のやったことが無意味だったとさとる覚悟ができていなければなりません──よしんば暗殺に成功したとしても、彼は制度そのものではなく、人間を入れ替えたにすぎないこと、配役そのものではなく、役者の首をすげかえたにすぎないと教えられることを覚悟しなければなりません。そして失敗すれば、傷ついた暴君というのは情け無用になり、おびやかされた専制政治が束縛の鎖をしめあげてくるという結果に直面することを覚悟しなければなりません」(中略)「そればかりじゃありません」デイビッド・ロッシィはいった。「彼は自由を愛する真の友人たちから、暴力を行使する人間は自由の名に値しないとされることも覚悟しなければなりません。知力を武器にした戦いこそ人間的なものであり、それ以外の手段に訴える戦いは、けだものの戦いとなんら変わるところがないと──またわれわれは人間であり、したがって人間の武器は知力であって爪や牙でないこと、さらに知力と精神力の勝利をのぞくいかなる勝利も、野蛮で下劣なものであり──それ以外の勝利こそ栄光につつまれたものだとさとされることを覚悟しなければなりません」


【『永遠の都』ホール・ケイン新庄哲夫訳(潮文学ライブラリー、2000年/白木茂訳、潮出版社、1968年/1901年作)】


 真の雄弁は一人ひとりに向けて放たれる。害意を抱く者まで含めて。そして、時代や国家をも超越して私の胸にまで響き渡る。「言葉の力」ではない。今求められているのは「力のある言葉」だ。


 アメリカのオバマ次期大統領の演説には、人の心を揺り動かす力があった。尾崎行雄弾劾演説は第三次桂内閣を打倒した(大正政変)。桂太郎は8ヶ月後に胃癌のため死亡した。


 国会では国民の理解できない言葉が飛び交い、携帯電話では弱い絆を確認する目的の意味のない会話が繰り返されている。本物の言葉は、深き沈黙を湛(たた)えているものだ。昨今は、不安から逃げ出すための饒舌が氾濫している感がある。


ホール・ケイン
無名の勇者たちは「イタリア万歳」と叫んで死んだ/『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編