古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

「薬害エイズ」という言葉はおかしい

 一般に「薬害」と呼ぶのは、サリドマイドやスモンのように、医薬品の有害作用がきわめて強く、反面、医薬品として残すだけの価値の少ないものを指します。つまり「薬」とは名ばかりで、「公害」と同様の「害悪そのもの」との意味合いです。
 これに対して、麻酔薬や輸血などでは、副作用や合併症で重大な被害が起こることが知られていても、これを「薬害」とは言いません。
 血液製剤は人体の血液の一部を抽出したものであり、血液製剤の投与とは、基本的には輸血行為なのです。血液製剤のウイルス感染による副作用は、製剤の一部にウイルス汚染されているものが潜んでいたという問題なのです。そして、血友病治療には血液製剤の投与は必要不可欠であり、エイズウイルスの問題が判明してからも、加熱という工夫を施しながら使い続けてきているのです。
 したがって、「薬害エイズ」という言葉は適切ではありません。「輸血事故エイズ」という言葉の方がふさわしいでしょう。しかし「薬害エイズ」という言葉がすでに広く用いられていることから、この本においては、「薬害」という言葉の意味に注意したがら使用するという意味を込めて、括弧をつけて、“「薬害エイズ」”と呼称することにします。


【『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実 誤った責任追及の構図』武藤春光、弘中惇一郎(現代人文社、2008年)】