それぞれのニューロン(神経細胞)は他のニューロンと、およそ1000個から1万個のシナプスを形成している。シナプスにはオンとオフ、つまりあるシナプスが物事を刺激する信号を出す一方で、別のシナプスがそれを鎮める信号を出し、驚異的に複雑な出入りが進行する。砂粒くらいの大きさの脳の断片に、10万個のニューロンと200万本の軸索と100億個のシナプスがあり、それらがたがいに「会話」をしている。これらの数字をもとに計算すると、可能性のある脳の状態――理論的に可能な活動性の順列と組みあわせの数――は全宇宙の素粒子の数を超える。これほど複雑な脳の機能を、いったいどこから理解しはじめればいいのだろうか。機能を理解するためには、神経系の構造を理解することが不可欠なので、まず脳の構造をざっと見ることにする。脊髄の上には脊髄と脳をつなぐ延髄という部位があり、ここに血圧、心拍数、呼吸などの重要な機能をコントロールするニューロン集団(核)がある。延髄の次は橋(きょう)という部位(ややふくらんだ部分)で、小脳に神経線維を送っている。小脳は脳の後部に位置するこぶし大の組織で、体の強調運動を助けている。これらの上に、二つの巨大な半球がのっている――かの有名なクルミ形の脳半球である。半球にはそれぞれ前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の四つの葉(よう)がある。
【『脳のなかの幽霊』V・S・ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー/山下篤子訳(角川書店、1999年)】