しかし、言語学者のデレク・ビッカートンによると、ピジン(※互いの言語を学ぶ機会がなかった者同士の間で作られた混成語。奴隷貿易などから生まれた)があるとき一挙に複雑な言語に変身する例も多々あるという。変身の条件はただ一つ、子どもの集団が、母語を獲得する臨界期に、両親の母語ではなくピジンに接することである。子どもたちが両親から引き離され、一カ所に集められて保育される仕組みのプランテーションで、面倒を見る係がピジンで話しかければ、この条件が満たされる。実際、その例はいくつもあった、とビッカートンはいう。子どもたちは、断片的な単語の連なりを真似するだけでは満足せず、複雑な文法を織り込んで、表現力に富んだまったく新しい言語を作り上げる。子どもがピジンを母語とした場合に出現する言語を「クレオール」という。
【『言語を生みだす本能』スティーブン・ピンカー/椋田直子〈むくだ・なおこ〉訳(NKKブックス、1995年)】