グルヌイユの特異な能力

 これに対してマダム・ガイヤールは、この少年に特異な能力を認めていた。不自然とまでは言わないまでも、きわめて異様な才能というしかない。たとえば子どもは暗闇を恐がるものだが、グルヌイユにはまったくそんな気配がなかった。いつ何時(なんどき)でも穴蔵へ下りていく。ほかの少年ならランプを持たしても尻ごみするのに平気でトコトコ闇のなかへ下っていく。まっ暗な夜に平然と物置小屋に薪を取りにいく。明りなどついぞ持っていかないのに、ちゃんとしかるべきものを持ち帰る。暗闇でつまずいたりしない。ぶつかることもない。マダム・ガイヤールは首をひねった。もっと不思議でならないことがあるのだ。どうやらこの少年は紙や布や木を通して、いや、壁ごしやドアごしであれ、向こうがちゃんと見えるらしい。部屋に入る前に何人の仲間が寝室にいるかを言いあてた。キャベツを断ち割る前に、なかに芋虫がいるのを見通していた。マダム・ガイヤールはつねづね小金(こがね)を隠す習慣があり、隠し場所をよく変更するものだから、あるとき、はたしてどこに隠したのやら判らなくなったことがある。グルヌイユは、少しも探したりせずに暖炉の梁(はり)のうしろだと言った。のぞいてみると、たしかにそこにあったのである!
 未来すら予見できるらしかった。誰それがやって来ると、当人が現われるより先に言ってのけたし、空にまだ雲一つ現われてないのに、早々と嵐の到来を予告した。何を見つけてのことではない。目で見ての上ではなく、ますます鋭敏さと正確さを増していく鼻のせいだった。


【『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント池内紀〈いけうち・おさむ〉訳(文藝春秋、1988年/文春文庫、2003年)】


香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)