古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

大恐慌が第二次世界大戦を惹き起こした/『「1929年大恐慌」の謎 経済学の大家たちは、なぜ解明できなかったのか』関岡正弘

 確かな視点で1929年のアメリカ発大恐慌の原因を解こうとした労作。硬質な教科書本。本書は元々、ダイヤモンド社から1989年に刊行されたもの。PHPが復刊させた。大英断。文庫ではなくハードカバーにしたのも正解だ。末永く読まれるべき作品である。


 初版はバブルの絶頂期に発行され、その3ヶ月後に日経平均は天井をつけ、奈落の底に叩き落された。まさに、「バブル崩壊を予言した一書」といえよう。これほどの人物が日本にいたとは驚き。


 1929年の大恐慌第二次世界大戦の導火線となった――

 大恐慌は大不況につながった。そして世界経済は、重大な影響を受けた。第二次大戦は、大不況がもたらした世界経済のひずみによって惹き起こされたのだ。
 第二次大戦後、GATTIMFなど、国際貿易の発展を保証するインスティチュート(制度・機関)が創られたのは、記憶にまだ生々しかった大不況への対策だったのである。半面それは、経済に対する政治の干渉であった。しかし生身の経済を政治が押さえ込むことはむずかしい。GATTIMFは、次第にその限界を露呈し、政治から完全に独立したユーロダラー・マネー(米国外で取引される米ドル建資金のこと)市場が自然に発生して、大発展した。
 ユーロダラー・マネーは、国家の束縛を離れた民間の自由なマネーである。今やそれは、巨大なアミーバーのごとき怪物に成長し、自らをグローバル・マネーなどと称するに至っている。そして、より一層の自由を求めて、日本にも自由化の拡大を迫っている。


【『「1929年大恐慌」の謎 経済学の大家たちは、なぜ解明できなかったのか』関岡正弘(PHP研究所、2009年/ダイヤモンド社、1989年『大恐慌の謎の経済学 カジノ社会が崩壊する日』改題)】


 2007年8月から、サブプライムローン問題によって世界中のマーケットは下落の一途を辿っている。最近は若干戻しているように見えるが、底というものは打った後でなければわからない。日経平均は1989年12月29日に3万8957円をつけた後、ずっと下がり続けている。


 バブル崩壊後、日本国内に投資すべき対象はなくなっていた。数百兆円の預貯金はじっとしているわけにいかず、海外へと動いた。そして、日本から流出したお金が欧米のバブル経済を支えた。また、長らくゼロ金利政策をとったため、外国人は円キャリートレードをするだけで利益を生むことが可能となった。


 グローバリゼーションの成れの果てがこのザマだ。このまま「100年に一度の事態」となることがあれば、いくつかの国が戦争の道を選ぶことは十分考えられる。可能性としては、イスラエルvsパレスチナを表向きとした、アメリカvsイラン戦争か。


 関岡正弘は、今までの大恐慌分析が“富の蓄積”への考察を欠いていたと鋭く指摘している。また、時価総額なるものが想像上の産物であり、決して実現されることのない価値であると言い切っている。卓見。


 金融マーケットで行き交うマネーは、レバレッジを利かしているため膨大な量となっている。手持ちの金の10倍、100倍といったレートで行うギャンブルのような世界だ。アメリカは金融工学と称して、世界中からマネーが集まる賭場を開帳したのだ。


「私には関係ない」と思っている人も多いことだろう。だが、関係は大有りだ。我々の預貯金や保険金だってマーケットに流れているのだから。


 ま、アメリカはそれほど馬鹿じゃないから何とかすることとは思うが、舵取りを誤ると資本主義というシステムが吹き飛ぶこともあり得る。使わないお金があるなら、預金よりも金現物の方が安全だと思う。


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Ddogのプログレッシブな日々