・巧みな介護の技
・『古武術で毎日がラクラク! 疲れない、ケガしない「体の使い方」』甲野善紀指導、荻野アンナ文
・『体の知性を取り戻す』尹雄大
・『響きあう脳と身体』甲野善紀、茂木健一郎
・『武術と医術 人を活かすメソッド』甲野善紀、小池弘人
DVD付き。岡田慎一郎は古武術を利用した介護を提唱したエキスパート。古武術は甲野善紀に師事している。介護にありがちなのは、介護している側が要介護者の体位移動で腰を痛めることである。同居家族やヘルパー、はたまた看護師に至るまで腰痛を抱える人は多い。疲労はそのままストレスとなる。こうなると、三好春樹が説くところの「関係障害」になりやすい。
体位変換の基本は力を入れずに行うことだ。基本は要介護者の身体を小さくまとめること。例えば、寝た状態から→胸の上で腕を交差してもらう→両膝を立てる、たったこれだけのことだが、指一本で立てた膝の横を押すと、身体は横に転がるのだ。試しに家族でやってみるといい。シーツ交換をする時の基本だから覚えておいて損はない。
岡田慎一郎の古武術介護で特筆すべきことは、「キツネさんの手」と「手のひら返し」だ。
まず、立っている人を後ろから抱え上げてください。何も考えずに普通にやると、腕をまわしてギュッと握ると思います。もしかすると、より相手と密着できるように、手首を握る持ち方をする人もいるかもしれません。しかし、いずれにしてもかなり筋力を使用するやり方で、体重があるとだんだん厳しくなってくると思います。
ここで、古武術的な一工夫を加えます。両手をぐっと握るのではなく、中指と薬指で「キツネさんの手」を作り、互いにひっかけ、そのまま、腕には力を入れずに相手の身体を自分の身体に乗せるように抱え上げます。
……いかがでしょうか? 常識で考えれば、しっかり力を入れて握ったほうが安定するし、力も効率的に伝わりそうですよね。でも、実際にやってみると、こちらのほうが相手の身体を楽に持ち上げることができるのを実感いただけたのではないでしょうか。
この方法の威力を強く実感した出来事をご紹介します。
NHKの『課外授業 ようこそ先輩』という番組に甲野善紀先生が出演されたとき、その収録現場でアシスタントとして小学校5年生の女の子にこの方法を教えたところ、当日のゲストで183cm92kgもあるスポーツ指導者の方を軽々と持ち上げてしまったのです。持ち上げたのは3名で、みな体重40kgにも満たない女の子でした。
こうした実践的な介護手法は開発されているとは言い難く、レスリングや柔道などは、いくらでも応用可能だと思われてならない。
いずれにせよ、超高齢社会となるのは時間の問題である。介護を必要とする人々は増え続け、他人事では済ませられなくなることだろう。力任せの介護は長続きせず、要介護者に与える負担も大きい。本書が介護現場に光を射す知恵であることは確かだ。
- 『もっと!らくらく動作介助マニュアル 寝返りからトランスファーまで』中村恵子監修、山本康稔、佐々木良(医学書院、2005年)
- リハビリ