ジョークに期待しない方がよい。品もないし、面白くもない。大事なのは「世界中でジョークにされているアメリカ」という事実だ。
タイトルと内容がそぐわない。軽い気持ちで手に取らせて、アメリカの現実を教えようとしたのかも知れない。「アメリカが世界で何をしているのか」がコンパクトにまとめられている。是非とも若い人に読んでもらいたい。
2003年に勃発したイラク戦争のキーワードの一つが大量破壊兵器(WMD、Weapons of Mass Destruction)だったが、そもそもイラクに大規模な軍事援助を行ってきたのが誰あろうアメリカだ。1979年にイランではホメイニ師が親米的なシャー体制を打倒するイスラム革命が勃発したが、その後のイランに対峙する役目をイラクに担わせるため、アメリカはイラクを軍事的、経済的に支援した。輸出した品目の中には、炭疽菌やボツリヌス菌のような生物兵器や化学兵器の素材と成り得るものまで含まれていた。「非軍事品」という名目で、商務省が輸出許可を出していたのである。また、アフガニスタンのタリバン政権が保有していた武器も同様で、これはかつて対ソ用にアメリカが援助したものだった。
既に多くの人々が知る事実だが、アメリカによって戦争がどのように演出されているかが、よくわかる。クリントン政権によって、アメリカ産業はハードからソフトへの大転換がなされた。製造業が大幅に圧縮され、基幹産業は軍需産業となった。コソボ空爆は「爆弾の在庫処分」が目的だったとされている。戦争を起こして相手国を破壊し尽くし、再建は米国企業で行うといった手法で、アメリカ経済は成り立っている。アメリカ流のスクラップ・アンド・ビルドといってよい。歴史を振り返れば、アメリカが戦争に手を染めると、必ず日本の景気もよくなっていることに気づく。
混乱の極みにあった占領統治が続く中で、内部告発から明るみとなった米兵によるイラク人捕虜への虐待事件は、戦後処理における局面を最悪の事態へと推移させた。アブグレイブ(Avu Ghraib)収容所を始めとするイラク各地の収容所で日常的に行われていたとされる捕虜虐待は全世界に衝撃を与え、特にイスラム世界では激しい対米憎悪を生む契機となった。(中略)
これらの収容所で勾留されていたのは大半が民間人である。その多くが掃討作戦中に正当な理由もなく拘禁された人たちだった。その中には女性や子どもも多数含まれていた。
イスラム教徒にとって他人に裸を見せることは最大の恥辱であるが、こうした虐待が連日行なわれたという。軍用犬に皮膚や肉を食いちぎられ、溜めてあった他人の尿の中に顔を突っ込まれる、肛門に蛍光スティックやほうきを挿入される。男同士での性行為を強要される、電極を付けられて台の上に立たされ「台から落ちたら感電死する」と脅される。兵士たちは自らが演出した残虐行為の前でにこやかな笑顔を浮かべて写真を撮り、それを仲間や家族に送っていた。目を背けたくなるようなシーンと共に写る兵士たちの笑顔に、世界は唖然とした。
『ロサンゼルス・タイムス』によれば憲兵による「虐待コンテスト」が行われ、どれだけ多くの拘束者を泣かせることができたかが競われていたという。軍用犬を使っての拷問は、ラムズフェルド国防長官の認可の下で行われていたとされている。
- イラクチームの快進撃を政治利用したブッシュ大統領/『蹴る群れ』木村元彦
「敵」は「モノ」になる。ここに覇権国家の恐ろしさがある。憎悪はアイデンティティによって支えられている。いつの日か必ず手痛いしっぺ返しに遭うことだろう。
ジョークの世界では、20世紀後半の主役はソ連だった。スターリンやフルシチョフは絶好の笑いの標的となり、ヨーロッパを中心として世界各国で楽しまれた。それが21世紀を迎えた今、主役はアメリカへと移行した。反米ジョークによってアメリカは世界中の人々に笑われている。
アメリカが揶揄されている現実は、既に崩壊の兆しといってよい。「裸の王様」であることに世界の人々は気づき始めた。
先住民族虐殺と共にアメリカにとっての歴史的弱点となっているのが黒人問題である。1776年にアメリカは建国されたが、以降、奴隷制は「南部の経済発展のために不可欠」として維持され続けた。平等を謳った独立宣言の起草者であるトーマス・ジェファーソンが、実はヴァージニアの奴隷保有者だったという事実は象徴的である。
これが本書の中で最高傑作と思われるジョークだ。