古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

コペルニクスが引っ繰り返したもの

『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン

 ・かつて無線は死者との通信にも使えると信じられていた
 ・レオナルド・ダ・ヴィンチ
 ・コペルニクスが引っ繰り返したもの
 ・コペルニクスは宇宙における人間の位置づけを変えた

・『重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』大栗博司
『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 フェルミのパラドックス』スティーヴン・ウェッブ
『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド

 ルネッサンスの時代までには、プトレマイオス的世界観が西欧文化全体に普及し、絵画や文学や音楽、航海術はもちろん、医学、そして当時は本物の科学と見なされた占星術にも浸透していた。この世界観は美的感覚を満足させる構成で、その時代に浸透していたキリスト教神学にうまく調和していた。地上のあらゆるもの――月より下にあるもの――は原罪に染まっており、いっぽう月より上の天の周転円は汚れなき聖なるもので、神聖な“天上の音楽”に満たされていると考えられた。英国のジョン・ダンのような宮廷詩人たちの流行になったのが、女主人を“月以上”だと褒めそやし、“さえない地上の恋人たちの愛”を下等で劣ったものとして退けることだった。そして、社会階級制度をなんとしてでも維持するための、手ごろな理論的根拠を与えることになった。「天の星々も、惑星も、この宇宙の中心である地球も/序列、階級、地位をまもっているのです」。シェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』のなかで、ユリシーズはこうご高説をたれる。いわゆる“存在の大きな連鎖”の序列をひっくり返せば、あとに待つのは枷を外された“混沌”というわけだ。


【『黒体と量子猫』ジェニファー・ウーレット/尾之上俊彦、飯泉恵美子、福田実訳(ハヤカワ文庫、2007年)】