皆が他人のために利用され合っている

 金持ちゆえに大勢の者たちに詰めかけられる人々を見るがよい。この人々は自分の財産で首を締められているのだ。多くの人々にとって富はいかに重荷であろうか。いかに多くの人々が弁舌を振るい、また自己の才能を誇示せんと苦慮して日夜血を吐く思いをしていることか。いかに多くの人々が快楽の連続で青ざめていることか。いかに多くの人々が大勢の子分たちに取り巻かれて、少しの事由さえも残してもらえないことか。要するに、これらの人々を最下位から最上位までずっと見渡してみるがよい。ここには訴訟の相談に乗る者がおり、また証人になる者がいる。あそこには人を審問する者がおり、また弁護に立つ者がいる。またあそこには判決を行なう者もいる。しかし誰ひとりとして自分自身に対する権利を主張する者はない。互いに他人のために利用され合っているだけだ。


【『人生の短さについて』セネカ/茂手木元蔵〈もてぎ・もとぞう〉訳(岩波文庫、1980年/大西英文訳、2010年)】


人生の短さについて 他二篇 (ワイド版 岩波文庫) 生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)
(※左が茂手木元蔵訳、右が大西英文訳)