人生の明暗を分ける出来事

 だが、彼は過去をまだ手放すことができなかった。すっかり伸びきてしまったゴムバンドを握りしめるように、彼は必至に過去にしがみついて生きていた。あのころはなにも説明の必要がなかった。時が過ぎるのは自然なことで、決して恐ろしいことではなかった。あのころはまだ、彼は希望をもっていた。


“あのとき以前”と“あの時以後”。


 カレンダーがあれば、彼は【あのとき】の具体的な日付を指さすことができた。だが、彼の中ではその境目はもっとあいまいなもので、長期間にわたっていた。それは勇気がゆっくりと、毎日少しずつ彼から消えてゆき、すべては失敗だという確信に取って代わった長い期間だった。なにごとも彼にとって重要ではなく、自分の宿命を引き受ける用意をしなければならないと悟った時間。もう間に合わないから闘ってもむだだと悟った時間。


【『罪』カーリン・アルヴテーゲン/柳沢由美子訳(小学館文庫、2005年)】


罪 (小学館文庫)