古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

リスクテイカーになる意味

 問題はこの前提が真実よりも深いレベルで受け止められていない点だ。もちろん、だれもがトレードを仕掛けるときにリスクを取っている。しかしだからといって、リスクを受け入れたわけではないのだ。すべてのトレードにリスクがある。なぜなら可能性に賭けているのであり、結果は保証されたものではないからだ。しかしトレードを仕掛けるとき、自分がリスクを取っていると本当に分かっているだろうか。トレードが何の保証もない可能性に賭けているものであると、本当に受け止めているだろうか。そして可能性の結果を十分に受け入れているだろうか。
 答えは明らかに「ノー」だ。大半のトレーダーは、成功者のようなリスクの考え方(リスクテイカーになる意味)をまったく分かっていない。最高のトレーダーはリスクを取るだけではない。リスクを許容する方法を習得しているのだ。トレードを仕掛けたからリスクテイカーになったという前提と、各トレードに内在するリスクをはっきりと許容する考え方には、心理的に大きなギャップがある。リスクを十分に許容して初めて、その成果が自分の運用成績に大きく表れるのだ。
 最上級者は何のためらいも葛藤もなくトレードを仕掛ける。そしてトレードが機能しなくても、同じくらい何のためらいも葛藤もなく、容易にその事実を認める。たとえ含み損で手仕舞っても、不愉快な感情は微塵も見せない。つまりトレードに内在するリスクで、自分の規律、集中力、自信を失うことはないのである。裏を返せば、不愉快な気持ち(特に恐怖心)でトレードしているのであれば、トレードに内在するリスクを受け入れる方法を学んでいないことになる。これは大きな問題だ。なぜならリスクが許容できない度合いとリスクを避けようとする度合いは比例するからだ。そして避け難いものを避けようとする試みは、トレードを成功させる能力に壊滅的な打撃をもたらすのだ。


【『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス/世良敬明(せら・たかあき)訳(パンローリング、2002年)】


ゾーン ― 相場心理学入門