ひょっとするとこの作品は期せずして生まれたものかも知れない。『ブラック・プリンス』(光文社文庫)のソールとエリカ、そして『石の結社』(光文社文庫)のドルーとアーリーンが本作で顔を合わせる。このアベックが余りにも酷似し過ぎているのだ。海外ミステリに慣れている方でも、かなり戸惑うことだろう。更に、物語の中ではソールの義兄弟クリスとドルーがそっくりという設定になっている。まあ、ストーリーが面白いから勘弁してあげよう。
共に復讐を果たして隠棲した2人が、またしても事件に巻き込まれる。静かな生活をしていたイスラエルの原野で銃火器が火を噴いた。ソールが村の若者を訓練していた甲斐あって事なきを得る。時を同じくして、エリカの父が突如、行方不明となる。彼はナチスに抗したレジスタンスの闘士であった。
その頃、ドルーは贖罪(しょくざい)のためにエジプトの砂漠で苦行に等しい生活を送っていた。命の火が消えんとする寸前にアーリーンが現われる。彼女は“石の結社”からの密命を帯びていた。行方不明となった枢機卿を探索せよ。
二つの物語に、もう一つの物語が加えられる。ナチスの子供たち。彼等の父親までが姿を消す。子供たちの中から2人の名うての殺し屋が父たちを追う。
アーリーンの父親以外にも、ナチスと戦った老人たちが皆、行方知れずとなっていた。これは“夜と霧作戦”の再来なのであろうか?
とまあ筋書きはよくありがちなものだが、場面展開が巧いので苦もなく読める。ソールとドルーの見分けがつかなくなるのが、やはり難だが、まあ、お祭りみたいな顔合わせだからしようがないよ。
単独作品として見ると弱みもあるが、前作でそれぞれ人生の絶望を乗り越え、復讐を果たした二人の友情には、やはり心を打たれる。
エリカの父がトロントで発見される。エリカがソールに飛行機の切符の手配を頼む。その時、ドルーが「4枚だよ」と口を挟む。
「むろん、ぼくたちには行く義務はない。それでも行きたいんだよ」
「まだ、わたしのこともよくご存じないのに?」
「これから知ればいいことさ」
試練をくぐり抜けてきた者同士の心が通うのは時間を要さなかった。
戦い終えた二人のやり取り――
「初めはだね」とソールは語を継いだ。「初めて会った時のことだ。ぼくはすぐにきみに親しみを感じたんだ。死んだ義兄弟のせいなんだよ。きみはクリスと同じ境遇だったね。それにまたクリスとそっくりときてる」
「初めは、と言ったね。そのあとはどうなるんだい?」
「似ているということだけでは、友情の根拠として弱すぎる。つまりは、きみがきみであるからこそ、これからも友人でありたいんだ」
ドルーは微笑した。
命を的にさらされるような闘争の劇を知れば、こうした何気ない言葉にすら万感の思いが押し寄せてくる。自分達の静かな生活を守るために彼等は立ち上がった。愛する人を守るために彼等は戦った。そして、彼等は彼等であったが故に勝利した。志を同じくしたプロの友情は清冽な月光のようだ。
この変則3部作は3日間で読める。予定のない連休にはうってつけである。至福の時間を過ごせることは、この私が請け合おう。