古本屋の覚え書き

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ニュース拾い読み・書き捨て 8

大リーグ・マリナーズイチローと佐々木が日本の報道機関に対して取材を拒否することを公表した


 7月17日付スポーツ報知にも、このことに触れたコラムが掲載されていた。記者側の言い分としては「一部の報道陣の行き過ぎがあったからといって取材拒否というのは一方的過ぎる」というのが大半。このコラムも同様だった。


 面白いのはその文脈。曰く「普通の人間は一生の内で三度、ヒーローになれるという。それは生まれた時、結婚した時、そして死んだ時だ。実感できるのは結婚式ぐらいしかない(主意)」。だからスター選手は多少、嫌なことがあったとしても取材には応じろといわんばかりの拙劣なコラムだった。他にも「イチローはまだメジャーではない」と題したスポーツ・コラムがあった。どうやらマスコミの言った通りに踊ってみせなければ、どんなことでも書いてみせるという決意表明のようだ。


 では、サッカー界で活躍している中田はどう感じているのだろうと思い、数年前にベストセラーとなった『中田語録』(小松成美著)を引っ張り出してみた。おお、あるわ、あるわ。いくらでもありますなあ(笑)。

 自分がどんなふうに見られているのかなんて、まったく気にしていませんから。騒がれていることにも、騒がれている自分にも感心がない。

 素晴らしい、凄い、と思ってもらえるプレーをするのが俺の仕事で、それが当たり前のこと。褒められるようなことじゃないでしょう。

 過去のプレーを褒められても喜べない。もしも、過去のプレーを褒められることに満足するようなことがあったら、俺はその日にサッカーをやめますね。

 自分じゃない自分がどんどん大きくなっていく。本当に馬鹿げてる。


 挙げ句の果てには「あとがき」にまで、こんなことを記している。

 嘘が氾濫(はんらん)している。
 本当に腹立たしい。
 人の人生や人格を捏造(ねつぞう)して売り物にするような
 腐った人たちがたくさんいる。
 その現実に悲しくなる。
 そして、また黙るしかないと思う。
『中田』という名前を使い、くだらないフィクションを
 書き連ねる人には、真実など必要ないのだから。
 真実かどうかを調べることのできない読者は、
 作り物の話を信じて“嘘”にお金をはらっている
 そんな読者は本当に可哀想だし、何だか申し訳ない。


 中田、当時21歳。あとがきの半分以上を費やしてまで書かざるを得なかった彼の苦衷(くちゅう)が偲(しの)ばれ、やり場のない怒りが伝わってくる。


 イチローや佐々木も全く同じ心境ではないのか。プロの中でも一握りの人間にしか許されない高みを登攀(とうはん)するニ人。一歩登れば登ったで、大騒ぎして売り物にする大人達。あるいは毀誉褒貶(きよほうへん)の風を吹かせ、彼等の前進を阻もうとすることも平気でやってのける。落ちたら落ちたで、“記事”という食い物にできるのだから。マスコミは記事を売るのが仕事だ。であるが故に、ありのままを報道しようとはしない。ドラマティックな脚色に脚色を重ね、ある時は薔薇色に、そしてまたある時は、真っ黒な色を塗ってみせる。


 21歳の青年が「腐った人たちがたくさんいる」と吐き捨てるように書いた言葉が生々しい。腐った情報をメシの種にしている多くの大人がマスコミを支えている。空き缶であれば再利用も可能だが、この手の情報はゴミ以上の存在になることは不可能だ。その上、ただのゴミではなく、ダイオキシンのように、あるいは核が発する放射能のように、微量ではるが有害極まりない毒が含まれている。選手あっての記者である。記者あっての選手ではない。ダニはダニらしくすべきだ。

ボーナスで自社製品を強制購入


 7月19日付朝日新聞より――


 松下電器産業は今月支給したボーナスで、 幹部社員に自社製品の購入を強制する「バイ・ナショナル/パナソニック運動」を始めた。 グループ5社の課長級以上約12000人に、20万円以上の製品を8月末までに買わせる。 実際に買ったかどうかを確認するために、 領収書の提出を義務付けるという。 役職に応じて購入要請金額も増え、部長級で30万円以上。 対象者全員が応じれば、少なくとも24億円の売り上げになるそうだ。


▼松下の第1四半期は数百億円の営業赤字。この穴埋めを狙う作戦だ▼経営陣の無能力を、幹部社員の家計に押し付ける愚行だね▼罪の無い奥方たちは鬼となるやも知れぬ。▼そこで、このわたくしが知恵を授けて進ぜよう▼近所の小さな電気屋の親父を一杯呑みに誘う。で、親父に酔いが回った辺りで「領収書」の件を頼み込むのだ▼まあ、これぐらいは亡き幸之助さんも勘弁してくれると思うぜ▼それにしても社員の犠牲の上に自社の繁栄を築こうとする顛倒(てんとう)が恐ろしい▼国民の犠牲の上に成り立つ政治が司る国らしいよね。▼今後、雑誌『PHP』で人の道を説く真似はよしてもらいたい▼松下の企業姿勢は新たな世紀に相応しくない▼吾が輩は、今後、松下製品は絶対に購入しないことをここに誓うものである▼そして、松下の幹部社員の精神は“奴隷”と堕したことを付け加えておこう▼平社員の諸君は、奴隷に使われる奴隷とならないようにね。

シンクロ日本ペア 悲願の「金」


 7月21日付朝日新聞より――


▼水泳の第9回世界選手権の第5日目。世界選手権で初の金メダルを日本勢が獲得。強豪ロシア勢を抑えての優勝に喜びもひとしお▼この日、2面「ひと」欄に掲載されたのはコーチの井村雅代氏。時折、記事になっていた鬼コーチだ▼「選手の優勝インタビューの間、壁の陰で泣いていた。姿を現すと一言。『鬼の目に涙はあかんで。きれいな見出し、つけてな』」▼マイナー競技の悲哀を誰よりも知る人。84年ロサンゼルス五輪からの帰途、年配の女性から「シンクロの方ね」と声を掛けられた。この瞬間の感動が忘れられないという▼「シンクロをもっと広めたい。それが、私の狙う金メダルですわ」▼鬼の怒声は、遠大な夢に向かって発せられたものだった。