古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『雪のひとひら』ポール・ギャリコ

 天から舞い降りてきた雪のひとひらの一生を描いた物語である。


 平凡な女性の平凡な一生である。その意味で、雪のひとひらはあらゆる女性の象徴といえよう。


 雪から雫(しずく)へと変化した雪のひとひらは、人生という名の川の流れに身を委ねる。出会い、結婚、子供たちの成長、離別──誰にでもある人生の一コマを、美しい風景の中にクッキリと浮かび上がらせている。


 何度か訪れる人生の危機──その度に雪のひとひらは自分をつくり出した何者かに向かって問い、訴え、祈りを捧げる。


 女性ならではの孤独と不安をすくい取る筆致がこの上なく優しい。


 栄光とも、悲惨とも無縁であった女の一生。子を生み、子を育て、子等が去ってゆく女の一生。尽くすことばかり多く、酬(むく)われることの少ない女の一生。果たしてそれが幸福と言えるのであろうか──女性であれば誰もが抱く煩悶に著者が与えた解答は、神の祝福であった。