2010-07-10 木の芽 抜き書き 一雫(ひとしずく)こぼして延びる木の芽かな 有井諸九(ありい・しょきゅう) 『諸九尼句集』所収。有名な加賀の千代所女とほぼ同時代に生きた筑後(福岡)出身の女性俳人。「行春や海を見て居る鴉の子」のような、切れ味のいいせいせいとした句を作った。右の句も彼女の鋭い感覚と的確な表現力がみごとにあらわれている句である。しだいにふくらみはじめた木の芽に、春雨がやわらかくかかる。一滴たれるたびに、芽も一緒にひき延ばされていく感じ。実際そのようにして木の芽は育つ。 【『折々のうた 第十』大岡信〈おおおか・まこと〉編(岩波新書、1992年)】 大岡信