「平和だったサラエボに戻りたい」

「いまは夏休みだけど、学校も再会されたしね。あの2年間は、ほとんど勉強できなかったわ。ああ、戦争が始まる前に戻ることができたら、どんなにいいでしょう。あの2年間の失われた時を取り戻したい……。あの2年間には、楽しいことがたくさん起こり得たはずなのよ。もう、かなわない願いだけど、サラエボで生き延びた人間なら、誰でもそう願っていると思うわ。あの以前の平和だったサラエボに戻りたいって……」
 思春期を戦火の中で過ごした少女の美声に触れて、私は胸がつまった。そして何よりもその体験を、こんなにも淡々と、笑顔で語ることができる強さに驚かされた。


【『失われた思春期 祖国を追われた子どもたち』堅達京子〈げんだつ・きょうこ〉(径書房、1994年)】