古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

「太陽の男たち」の冒頭

 アブー・カイスは湿り気をおびた土に胸を憩わせた。すると大地は身体の下で息づき始めた。心臓の鼓動はもの憂く脈打ちながら砂の粒子に伝わり、それから彼の細胞のすみずみに行きわたった。砂の上に腹這いになるたびに彼はこの脈動を感じ取る。それはちょうど大地の心臓が、彼が初めてそこに胸をあててこのかた、遥か地底の暗闇から光を求めてたゆみなく険しい道を切り拓いているかのようであった。


【『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー/黒田寿郎、奴田原睦明〈ぬたはら・のぶあき〉訳(河出書房新社、1978年〈『現代アラブ小説集 7』〉/新装新版、2009年)】


ハイファに戻って/太陽の男たち