古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

現実認識は「自己完結的な予言」/『クラズナー博士のあなたにもできるヒプノセラピー 人生を成功に導くための「暗示」の作り方』A・M・クラズナー

 一般向けに書かれた催眠療法の入門書である。中盤からは結構難解。


 昨今は、科学的な検証性や論理的な整合性を欠いたものを「トンデモ」と嘲笑う風潮が見られるが、少しばかり優(まさ)っている知識に任せて小馬鹿にしているだけのレベルだ。大体が専門バカの類いで、サブカルチャーを気取っているが実際は全くカルチャーの名に値しない。「と学会」だってさ。最初は成金(=と金)のことかと思ったよ。


 理知を重んじることはもちろん大切ではあるが、傾き過ぎてしまうと単なる「科学信仰」「理論教」となってしまう。科学といったところで、その本質は「解釈」に過ぎないのだ。


 というわけで催眠療法である。あらかじめ断っておくが「療法」であって「術」にあらず。ニタニタしながら「ひょっとして、可愛いあの子を意のままにできるのかな?」などと妄想を逞しくするだけ無駄だからね(笑)。


 戦略があるのかもしれないが、催眠療法というネーミングがよくないと思う。実態は深層心理療法であり無意識療法といってよい。効果のほどは多分、薬と同様で人によって様々なのだろう。ただ、本書に示されている「具体的なイメージを喚起させる言葉」は大変参考になる。

 アメリカの社会学者W・I・トーマスは「人がある状況を『現実』として定義すれば、結果的にそれが本人の現実となる」ととなえた最初の人物だ。コロンビア大学社会学教授R・K・マートンはその概念をさらに発展させて「自己完結的な予言」と言った。あるできごとを予測すると、そのできごとへの期待が私たちのふるまいを変える。つまり、そのできごとが起きやすくなるような行動をとるというのだ。


【『クラズナー博士のあなたにもできるヒプノセラピー 人生を成功に導くための「暗示」の作り方』A・M・クラズナー/小林加奈子訳(VOICE、1995年)】


 現実は事実と一致しない。事実は人の数だけ存在する。そして現実を支配するのは自分である。五官からの情報は事実として知覚され、脳内では現実という名の物語が構成される。「これも愛、あれも愛、たぶん愛、きっと愛」ってわけだな。


 ヒトという動物の特徴は言葉を使うところにあり、言葉は事物をシンボル化することで成立している。つまり、アナロジー(類推、類比)だ。先祖から代々伝えられてきた物語は文化として形成され、価値観として社会に根づく。こうした遺産が実は現代を生きる我々の「条件づけ」として機能している。


 ゲゲッ、時間切れだ。結論だけ簡単に述べよう。全ての知覚は錯覚である。以上。


偽りの記憶/『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』スーザン・A・クランシー