古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『どうして郵貯がいけないの 金融と地球環境』グループKIKI(北斗出版、1993年)



どうして郵貯がいけないの 金融と地球環境

 日本の市民運動の古典的名著 環境問題をはじめ、各種の市民運動住民運動をしている人々に出会い、北斗出版の名前を出すと、「ああ、『どうして郵貯がいけないの』を出した出版社ですね」といまだにいわれることがある。本は、著者名やタイトルは覚えている人は多いが、書名と出版社名までを関連づけて覚えていただける本を出すのは至難のことで、そう意味では大変うれしい。


 この本が、それほどに強い印象を与えた理由は、それまで多くの市民団体が扱ってきた個別の問題、たとえば森林破壊や原発や各種の巨大公共事業などの背景にあるお金の流れを解明したことにある。個別の事業をストップさせたとしても、巨大な資金がある限り、どこか別のところに投資されなくてはならない。だから住民運動や反対運動はもぐらたたきゲームになってしまう。個別の事業の裏にあるお金の動き全体に注目したことに著者の独創性が光る。しかも、民間銀行は信用できないので、郵便貯金の方がいいだろうと判断して郵貯を使っているという人にとっては、そこに預けたお金がめぐりめぐって自分の反対している事業に使われているという事実を知り、衝撃を受けた人も多い。金融や行政、研究者などの専門家の中にはそうした仕組みを知っている人もいたが、金融に精しくない学生や主婦にまでわかるように、そうした問題の本質を読み解いた本書は、1990年代の日本の市民運動の中の基礎的な文献となった。