民主党は財務省、経済産業省を擁護
電車本としては好著。もちろんトイレ本でも構わない。軽薄な調子の対談となっているが、高橋は元官僚だけあって政治力学を鋭く読み解いている。更に高橋と竹内が共に理系出身とあって、数式化を試みながら民主党の原理をわかりやすく示している。鳩山首相が辞任してしまったが、本書の内容はまだまだ通用する。
とにかくこの国の政治はわかりにくい。政治の基本は利益分配であり利益調整であろう。ところが「どの政策」が「どんな人々」に利益を配分しているのかがわからない。
例えば官僚の天下りに対して批判がかまびすしいが、天下りがなくなりそうな気配は微塵もない。つまり、政治というパワーゲームにおいて官僚は優位性を示しているのだ。その優位性を報じるメディアは一つもない。なぜなら彼等もまた許認可事業という優位性の恩恵に与(あずか)っているがゆえに、許認可権を牛耳る官僚には逆らい難いためだ。
政党政治というのは利益を共にする人々が支持している。民国社の連立政権の場合はこうだ――
竹●ざっと閣僚人事を見てきましたが、これで鳩山政権の支持母体はかなり明白になりましたね。まず、連立政権の核である【民主党の支持母体は、日教組、自治労、それからパチンコ業界】。次に連立政党である【国民新党の支持母体が郵便局長、社民党が市民運動団体】。でも、【国民新党と社民党は、2010年の夏にある参院選後は切り離す予定だから、実はそんなに意識していない】と。
ま、簡単に考えればこれらの団体が資金提供していると考えてよかろう。郵政改革法案の可決を目指す国民新党側に、全国の郵便局長らが過去3年間で総額8億1973万円を資金提供していたことが先日報じられていた。
それにしてもパチンコ業界ってのは何なんだ? 規制緩和を狙っているのだろうか? それとも外国人参政権に絡んでいるのだろうか?
民主党は国民の前で大々的に事業仕分けという芝居を行ったが、実際の予算見直しは特定の省庁に限られていたという(文中「先」は先生役の高橋)――
竹●ものすごく、分かりました。だから、【平成21年度分の補正予算の見直しでも、民主党が初めから叩いてやろうと決めていた国交省、農水省、厚労省、文科省の四つは、削減額が大きい】んですね。
また、八ッ場ダム建設中止について驚くべき実体が紹介されている――
先●(八ッ場ダムの)総事業費は結局4600億円に膨らんじゃったけど、残りの事業費1390億円(維持費を含めて1600億円)をつぎ込めば、ダムは完成する。完成すれば、6300億の便益が見込める。これだったら、どうします?
竹●便益の方が事業費を上回るから、事業は継続する方が良さそうですが。
先●そう。つまりね、【今までみたいにダラダラやって、また事業費が嵩んでいくようなら中止した方がいいけれど、すぐに手をつけられるんだったら、便益の方が上回るから作っちゃった方がいい】んです。
民主党政権に変わったことだし、実際、今だったら案外うまくいったかもしれないしね(笑)。
竹●建設した方が、やっぱり良かったんですね。でも、だったら何で中止することにしたんですかね?
先●マニフェストで公約したから。深夜に行われた閣僚の記者会見でね、前原さんが記者から「なんで止めるんですか?」って聞かれて、「マニフェストに書いてあるから」って言ってたもん(笑)。
竹●そ、それは……ちょっと合理的な判断じゃないですよね。
先●それだけだったらね(笑)。でも、【八ッ場ダム一帯は自民党支持者の多い地域】なんですよ。逆に、小沢さんの地元、【胆沢ダムは中止しなかった】でしょ。
竹●なるほど! つまり、【自民党にとっては有益だけど民主党にとって有益でないものは中止する】と。民主党目線では、きわめて合理的です。
しかも自民支持者を切り崩す目的で、地元住民には多額の補償金が支払われている。
貧富の格差が拡大しているという事実は、富の再分配が機能していないことを示している。ということは、収奪された税金は大企業や官僚に有利な形で使われているのだろう。まともに法人税を納めている企業の方が少ないのだ。
大企業や官僚は確かに問題だ。しかしもっと問題なのは、国民が自分の利益に鈍感であるがゆえにパワーゲームに参加していないことである。民主主義は決して万能ではないが、賢明さを欠くと民主主義は機能しないのだ。