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美術史は人類史の重要な資料/『イメージを読む 美術史入門』若桑みどり

 北海道大学で行われた集中講義を編んだもの。レオナルド・ダ・ヴィンチを始めとする中世の西洋画を読み解こうとする目的が、初めて理解できた。教会が社会を牛耳っていたため、科学的発見ですら「神を冒涜するもの」という烙印を押されて葬られた。ガリレオ・ガリレイが地動説を唱えて、ドミニコ会の修道士と論争を始めたのが1615年。ローマ法王が正式に謝罪をしたのは何と1992年のことだった。実に377年間もの長きにわたって、ガリレオは異端者として扱われてきた。こうした時代背景の中で、画家達は絵の中に重要なメッセージを残した。つまり、一種の暗号ってわけだ。

 美術史は、思想史や科学史や経済史や一般的な社会の歴史と同様に、人間の歴史の重要な一部であるから、これを欠いては人類の創造してきた世界の総体を理解することなどとうていできはしない。つまり、美術は人類の歴史のとても重要な資料なのである。そればかりでなく、美術史の知識や方法論というのは、過去の芸術作品を理解するばかりでなく、現在身の回りにたくさんあふれているイメージを解釈したり、イメージを作り出したりするためにたいへん役に立つものなのだ。
 企業も役所も学校も、イメージを利用しなければ製品を売ることも、共同体をまとめることも、心をひきつけることもできない。遠い過去から身近なところまで、われわれは無数のイメージに取り巻かれ、その影響を受け、それとともに暮らしているのである。


【『イメージを読む 美術史入門』若桑みどり筑摩書房、1993年/ちくま学芸文庫、2005年)】


「美術史を学ぶことで、シンボルを読み解くスキルを身につけなさいよ」という、みどりオバサンの指摘は重要。やや牽強付会と思われる部分もあるが、私は黙って従うつもりだ。敬老の精神を堅持しながら。長幼序あり……。


 それにしてもだ、中世の西洋画に比べると、今頃のイメージってえのあ、まるで思想がない。流行(はや)り廃(すた)りに敏感な様は、大衆の欲望に火をつけようと躍起になっているだけの姿勢を示している。経済がグローバル化しようと、家紋や半纏(はんてん)の印みたいなロゴで頑張ってもらいたいもんだよ。名は体を表し、イメージは文化を表す。


 ところで、人のイメージってのは何だろうね? まずは顔。ナンシー・エトコフによれば「美人は得をする」ことになっている。でも、顔だけじゃないよね。可愛いだけの馬鹿女も山ほどいらあ。イメージだからこの際、内面的な価値は無視しておこう。すると、体型・挙措・声・髪型などが浮かんでくる。パーツに関しては大きい部分に注目する傾向がある。「つぶらな瞳」とかね。


 また、フランス・ドゥ・ヴァールによれば、ボノボはボディランゲージに敏感で、係員が悲しげな表情をしていると、近寄ってきて肩に腕を回すという。


 まとまらなくなってきたので、筆を擱(お)く(←筆なんか持ってねーだろーが!)。