ジョージ・フォアマンの復讐/『彼らの誇りと勇気について 感情的ボクシング論』佐瀬稔


 佐瀬稔はムラが多い作家だ。というよりはむしろ、本書の完成度が高過ぎたのかもしれない。「ファイト」という名の詩を前にした途端、他の作品は色褪せてしまう。ジョージ・フォアマンは引退後、宣教師となった。それから10年後、青少年の更生施設の建設費用をつくるために再びリングへ上がった。フォアマンの復活劇を佐瀬は謳い上げる――

 絶対にラッキー・パンチのたぐいではない。ロドリゲスのアゴが弱過ぎたせいでもない。120kgの巨体が持つ力と、そして失われた歳月の間に蓄えたもの、すなわち、おのれの身を捨てる勝負度胸、相手を罠にかける狡知、何よりも、効果的なパンチを打つ技術。それらのすべてを、一個の凶悪な弾丸に凝縮してのワンパンチ・ノックアウト。
 リングサイドのイードニー・ロドリゲスがわっと涙にくれた。友人たちは、なぐさめる言葉を知らず、茫然と立ちすくむ。
 41歳の真実がギラギラッと光った一瞬である。
 リング上で、フォアマンが意識不明のロドリゲスを冷やかに眺め下ろしている。あわれなギーガーではない。肥った道化師でもない。大きくて強くて重くて、狡知にたけた王。キンシャサでアリのしかけた罠に落ち、暗殺された王が、人生に立ち向かっていく勇気と、絶対に諦めない執着心のゆえに蘇(よみがえ)って歳月に復讐をとげた。


【『彼らの誇りと勇気について 感情的ボクシング論』佐瀬稔世界文化社、1992年)】


彼らの誇りと勇気について 感情的ボクシング論