古本屋の覚え書き

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密偵政治が失敗する理由

 独裁政治の密偵政治が失敗するのは、君主がかえってこの密偵に誤られるからである。密偵は劇薬のようなもので、副作用が強い。その上に分量を誤るととんでもない結果を招くものだ。明代の天子が宦官を用いて密偵政治を強行して失敗したのがそれである。密偵に誤られないためには、ただの一本筋でなく、縦横十文字に密偵の系統をからみ合わせなくてはならない。できるならばとくに密偵というような専門の機関を設けるよりは、官吏同士をたがいにスパイさせるのが最上の策略である。よほど頭の緻密に働く、聡明な君主でなければ十分に密偵は使いこなせない。


【『雍正帝(ようせいてい) 中国の独裁君主』宮崎市定〈みやざき・いちさだ〉(岩波新書、1950年/中公文庫、1996年)】


雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)