このように、いかに難題であっても、数学の問題は、真か偽のどちらかに違いない。したがって、数学的真理は、いつかは必ず証明されるように思われる。
ところが、実は、そうではないのである。不完全性定理の重要な帰結の一つは、数学の世界においても、「真理」と「証明」が完全には一致しないことを明確に示した点にある。しかも、ゲーデルは、ただ完全に一致しないという結論だけを示したわけではない。彼は、一般の数学システムSに対して、真であるにもかかわらず、そのシステムでは証明できない命題Gを、Sの内部に構成する方法を示したのである。
つまり、命題Gは、真であることはわかっているが、数学システムSではとらえきれない。それでは、SにGを加えて、新たなシステムを作ればよいと思われるかもしれない。しかし、その新しい数学システムには、さらに別の証明不可能な命題を構成できるのである。これをいくら繰り返して新たな数学システムを作っても、ゲーデルの方法を用いて、そのシステム内部でとらえきれない命題を構成できる。したがって、すべての数学的な真理を証明するシステムは、永遠に存在しないのである。