古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ハイネ「本を焼却する国はやがて人を焼却するようになる」

 ユダヤ関連の商品や商店に対する不買運動が始まったのが、1933年4月1日である。それはわずか1日で終わったが、1週間も経たぬ4月7日には、市民公職法が発効された。これは、同じドイツ人でも、非アーリア系のドイツ人は、公証人、公立学校教師などの職に就いてはならないと定めるもので、法律によるユダヤ系ドイツ人の差別の端緒となったものであった。
 これより事態はすこしずつ加速していく。5月10日には、ナチス党員である学生や教職員が、ほぼ全国の大学や図書館で、「ドイツの文化的純血を損なうと懸念される」図書を焼くという大規模な事件が起こっている。このとき、焼却された図書の著書には、アルバートアインシュタイン、ジグムント・フロイド、ステファン・ツヴァイクなどが含まれている。かつて、ドイツの詩人、ハインリッヒ・ハイネは有名な言葉を吐いている。
「本を焼却する国はやがて人を焼却するようになる」
 この言葉が、やがて現実となる。


【『権威主義の正体』岡本浩一〈おかもと・こういち〉(PHP新書、2005年)】


権威主義の正体 PHP新書 330