古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

「星落秋風五丈原」


「星落つ秋風(しゅうふう)五丈原(ごじょうげん)」と読む。歌に心がある。絶品。

 作詞:土井晩翠
 作曲者:不詳


一、
  祁山(きざん)悲愁の風更けて
  陣雲暗し五丈原
  零露(れいろ)の文(あや)は繁くして
  草枯れ馬は肥ゆれども
  蜀軍の旗光無く
  鼓角(こかく)の音も今しづか
  丞相(じょうしょう)病あつかりき
  丞相病あつかりき


二、
  夢寐(むび)に忘れぬ君王の
  いまはの御(み)こと畏(かしこ)みて
  心を焦し身をつくす
  暴露(ばくろ)のつとめ幾とせか
  今落葉の雨の音
  大樹ひとたび倒れなば
  漢室の運はたいかに
  丞相病あつかりき


三、
  四海の波瀾収まらで
  民は苦み天は泣き
  いつかは見なん太平の
  心のどけき春の夢
  群雄立(たち)てことごとく
  中原鹿を争ふも
  たれか王者の師を学ぶ
  丞相病あつかりき


四、
  嗚呼南陽の旧草廬(きゅうそうろ)
  二十余年のいにしへの
  夢はたいかに安かりし
  光を包み香をかくし
  隴畝(ろうほ)に民と交れば
  王佐の才に富める身も
  ただ一曲の梁歩吟
  丞相病あつかりき


五、
  成否を誰れかあげつらふ
  一死尽くしし身の誠
  仰げば銀河影冴えて
  無数の星斗光濃し
  照すやいなや英雄の
  苦心孤忠の胸ひとつ
  其(その)壮烈に感じては
  鬼神も哭かむ秋の風


六、
  嗚呼五丈原秋の夜半(よわ)
  あらしは叫び露は泣き
  銀漢清く星高く
  神秘の色につつまれて
  天地微かに光るとき
  無量の思(おもい)齎(めぐ)らして
  千載の末今も尚
  名はかんばしき諸葛亮
  名はかんばしき諸葛亮