私が読んだ途端、絶版になってしまった。さすが古本屋というべきか。ただし、商魂逞しいベッチー先生なんで「オーディオブックCD」の方はまだある。『洗脳原論』の実践編といった内容で硬質な文章。
洗脳とは、「自由に取捨選択できない価値観」ということが可能だ。淫祠邪教の類いだけだと思ったら大間違い。また、洗脳(ブレイン・ウォッシング)は朝鮮戦争において中国共産党が米兵捕虜に対して行ったことで知られるようになったが、苫米地英人によれば社会から隔離しなくても可能だという。
例えば、不吉の代名詞である「北枕」。元々は釈尊(ブッダ)が逝去する際、頭を北向きにしたことに由来している。これが、遺体に適用されるようになり、我が国の“死を忌み嫌う伝統”とミスマッチして現在に至っている。私は色々試してみたが、北枕が最も快眠を得られる。北枕万歳、だ。何とはなしに磁気や地軸の向きと関連性があるような気がする。
更に考えないといけない点は、「いい洗脳」もあれば「悪い洗脳」もあることと、洗脳自体をどう考えるかということ。大雑把かつ大風呂敷を広げて言えば、「善悪の概念」すら洗脳といえよう。ってえこたあ、「文化」も洗脳っぽいな。我々が普段、“絶対”であると信じ込んでいる価値観も、時代や国が変われば、通用しないことは十分考えられる。
で、世襲議員だ――
現在、日本の国会議員はその4分の1が世襲議員だという。日本の人口1億2000万人超に対して、約3000人の国会議員経験者から平均1人の世襲後継者がいるとすれば、2世、3世議員候補の人口比率は4万人に1人、0.0025%だ。これはアメリカにおけるイスラム教徒より桁違いに少ない。それが実際には、国会議員の25%を押さえている。国会議員の選挙は、世襲議員にとって実に1万倍も有利に働いているわけだ。人口の0.3%未満のイスラム教徒が、米国議会の4分の1をしめれば大騒ぎとなる。日本ではその100分の1の「世襲教徒」が、国会の4分の1をしめている。我々普通の家庭と、国会議員の子息たちの家庭では、通常のアメリカ人とイスラム教徒ぐらい生活環境や社会経験が違うだろう。そんな彼らに、国民の生活を正常に代表できるわけがない。それが選挙で1万倍も有利な立場にいるのは、まさにこういった国民の被洗脳者的ブランド志向の現われだ。親子三代の国会議員などというのは、これを象徴しているのではないだろうか。最近、中国の友人が「日本人は金正日政権が世襲であることを批判するのは変だ」といっていたが、その通りである。
「国民の被洗脳者的ブランド志向の現われ」ってのがいいね。我々日本人は常に出自を問い、家・格式を重んじ、毛並みの良さを称え、長い物に巻かれ、大樹の陰で涼み、出る杭があれば皆で叩く。ひとたび議員になってしまえば、その地位すら相続できるのだ。しかも無税。こんなおいしい話はないよな。数百年も経てば、38世議員なんてのもいるかも知れんな。
2世議員を選出している選挙区民は田舎者(←差別用語)である。そんな選挙区には田吾作と花子しか存在しないはずだ。地域内では、堂々と差別がまかり通っていることだろう。で、息子ほどの年齢差がある議員に対して、ペコペコと頭を下げ、「先生、先生」と呼んでいるに決まっている。
しかも、この国は議員のみならず、社長までもが二世なのであった。嗚呼――。
読売新聞の調べでは、2002年12月の時点で、国会議員の2割がいわゆる世襲議員でした。毎日新聞の2000年調査によりますと、全国の都道府県議会議員では14%、政令指定市議会では13%が、親子代々、もしくは親子三代にわたって議員をしているのです。東京、大阪、名古屋、千葉などの都市部では、この割合は国会議員と同等の20%台に跳ね上がります。
世襲はなにも、政治家だけにかぎりません。通産省(現・経済産業省)の『総合経営力指標 製造業編・小売業編』で、企業の社長の実態も明らかになります。平成6年、一部上場、二部上場の488社中、二代目社長は111人。23%が世襲社長だったのです。
【『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ(イースト・プレス、2004年/ちくま文庫、2007年)】
・バカ息子こそが社会の公平を実現するカギ
・議席を相続する二世議員/『かくかく私価時価 無資本主義商品論 1997-2003』小田嶋隆