ポリフォニーとホモフォニー

 バッハは、左右の手が独立して動けるようにすることを、音楽の第一の基礎と考えた。そして初心者にも、伴奏音型のみに甘んずる怠惰な左手を許さなかった。それは、音楽に対するバッハの根本的な発想と関係している。
《インヴェンション》のように複数の線が独立にからみあって作られる音楽を、「ポリフォニー」(複旋律音楽)と呼ぶ。これに対し、ひとつの旋律を中心としてそこに和声をまとわらせてゆく音楽の書き方は、ホモフォニー(和声付単旋律音楽)と呼ばれる。この二つは、ヨーロッパで発達した多声音楽の作曲の仕方の両腕として、区別されている(世界の諸民族の音楽は和声なしの単旋律音楽――モノフォニー――がほとんどだが、ヨーロッパでは、複数の音をタテに組み合わせる音楽が大きく発展した)。


【『J・S・バッハ』礒山雅〈いそやま・ただし〉(講談社現代新書、1990年)】


J・S・バッハ (講談社現代新書)