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ブッシュ政権は、ITバブルの崩壊による景気低迷を底支えするため、低金利政策をとった。これによって住宅需要が喚起され、住宅バブルが起きたが、この資金需要に応じたのも日本である。
日本の金融機関は、民間の住宅ローン債権を買い取って証券化するフレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)はファニーメイ(連邦住宅抵当公社)などが発行するモーゲージ証券を大量に購入した。
モーゲージ証券とは、住宅ローン(モーゲージ)を担保として発行される債券のことである。銀行が個人の住宅ローンに対する融資の債権を証券化して住宅公社に転売する。これにより、融資した銀行は滞納などのリスクを避けることができる。
2004年初頭まで、30年物のモーゲージ金利は5.0〜6.5%と高く、しかも、複数の格付け機関からAAAにランクされていた。フレディマックやファニーメイなどの住宅公社は、ニューヨーク証券市場に上場している民間企業だが、米政府の特別な監督下にあり、連邦政府支援機関(GSE)として位置づけられている。モーゲージ証券は、連邦政府が支援する機関が発行しているために、高い信用力があったのである。
この高い信用力を頼りに、日本の金融機関は大量のモーゲージ証券を購入した。その額は2003年6月末時点で、1100億ドル(約13兆1800億円)にのぼっていた。
こうして、日本で行き場のなくなった資金は、アメリカ人の住宅ローンを肩代わりすることになったのである。
このようにペイオフ凍結は、日本の預金者の保護だけでなく、アメリカの資金需要をまかなうためにも好都合だったのである。これは、日本の経済がまさに一体で、日本の金融政策がアメリカの経済政策に組み込まれているということにほかならない。
1988年のバーゼル合意で、BIS規制は国際的なコンセンサスとなった。
BISのバーゼル銀行監督委員会が、国際金融市場で取引する銀行の自己資本比率を8%以上と定め、これを1992年末から適用するとしたのである。これを満たさない銀行は、国際金融市場での活動を大幅に制限されることになった。
先にも述べたように、BIS規制の定める試算の計算方法では、貸出金などはすべてリスク資金として計算され、国債などはリスク試算から除外していいことになっている。貸出金はリスク試算を増大させて自己資本比率を低下させるが、逆に国債はリスク資産として計上しなくていいから自己資本比率を大きくすることになる。
当時、日本の銀行の多くは、資産の大部分を長期貸出しで運用していたから、BIS規制によって、自己資本比率は低く算出されることになった。一方、欧米の銀行は長期貸出しが比較的少なく、BIS規制による影響はほとんど受けなかった。
長期貸出しが多いか少ないかは、財務内容の良し悪しの問題というよりはむしろ文化的な違いである。日本の銀行は、第二次世界大戦以降長く、産業金融の役割を担ってきたことから、長期にわたる貸出しは当たり前のことだったのである。
それをいきなり欧米並みの基準に合わせるように迫るというのは、いかにも強引なやり方である。BIS規制は、明らかに「邦銀潰し」を狙った策略だった。
日本の銀行は財務内容を調整するため、貸出金を抑制しなくてはならなくなった。これが、日本のバブル崩壊の引き金となった。
世界的な供給過剰時代になると、企業は製品を売って出た利益を新たな投資に回す必要がなくなる。利益は出ても設備投資はしないし、リストラで人件費を減らさなければならない。利益を再投資する必要がないのだから、余剰資金がたまることになる。
この余剰資金は、ファンドや投資銀行などを通して市場で運用され、どんどんそのボリュームを増しながら、国境を越えて、世界を股にかけて動き回るようになった。余剰資金の多くが、さらなる利益を求めてリスクの高い取引に向かう投機資金となっていったのである。
市場を駆けめぐるこれら投機資金の資金量は、もはや実体経済の規模を大きく上回るようになってしまった。2003年の世界全体の金融資本市場(株式時価総額、債券残高、銀行融資残高の合計)の規模は約130兆ドルであり、これは世界のGDP総額およそ40兆9960億ドルの約3倍の大きさである。
世界的な供給過剰から余剰資金が生まれ、巨額の投機資金が世界を駆けめぐっているというのが、今日の世界の市場の姿なのである。
・増田俊男
・ドル基軸通貨体制とは/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓