古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

儲け話の嘘を見抜く〜豊田商事/『プロカウンセラーの聞く技術』東山紘久

営業する人々」に共通するのは、“儲かる匂い”を意図的に発している点だ。儲け話――これこそが資本主義社会の通奏低音なのだろう。私ならたちどころに悟る。「お前は俺以上に儲け、お前の会社はもっと儲かる算段に違いない」と。

 カウンセラーを長年していますと、いつも人の話を聞いているからでしょうか、言葉と事実の区別がつくようになります。「ペーパー商法」で、豊田商事という会社が摘発されたことがありました。社会的に大事件だったのでおぼえておられる方も多いでしょう。
 当時、あの会社から私のところへも電話がかかってきました。私は、電話の向こうの個人的な感情がほとんど感じられない声を聞いていました。数分間の話は、「いま買えば必ず儲かる。早く買わないと損をする」ということのくり返しでした。私は話に間ができた一瞬のタイミングをとらえて、「必ず儲かるのですね」と念を入れました。そのセールスマンは「ハイ、絶対儲かります」と興奮ぎみの声で返答しました。私は「それなら、あなたが買うといいですよ」と言いました。彼は一瞬、私の言ったことの意味をとらえることができませんでした。私は、「絶対に儲かるのでしょう。それならセールスなどしないで、自分が買うのが最適ですよ」とくり返しました。彼は電話を切り、それ以後私のところへ電話がかかってくることはありませんでした。
 絶対儲かる話は、他人には内緒にするものです。絶対儲かるのなら、人には言わずに自分が買う、これは常識です。自分が儲けようとせずに、人に勧めるときはほとんど詐欺です。そうでないならば、利益誘導かインサイダー取引です。


【『プロカウンセラーの聞く技術』東山紘久〈ひがしやま・ひろひさ〉(創元社、2000年)】


 ここでいうカウンセラーというのは、「コミュニケーション能力に長けた」という程度の意味合いだ。つまり、相手の意図を察知する力だ。向こうは“売りつけよう”としている。何のために? もちろん自分の給料のためだ。じゃあ金のためなら何でもできるのか? テレアポや訪問販売を生業(なりわい)とする奴等はもちろんそうだ。その他大勢も。


 金のために倫理や常識――つまり内なる良心の声――を無視した瞬間から、犯罪に加担したも同然だ。彼、あるいは彼女達は、審判が見てなければ平然とラフプレーをしでかすような人生を歩むことになる。


 スパムメールにしてもそうなんだが、これほど拙い手法がまかり通っているのは、やはり騙される人々が存在するためだろう。判断する基準や能力を欠くと、その人は極端にコントロールされやすくなる。かような人物は日常生活においても「断る」ことができない。


 電話営業や訪問販売業者が来て、一々ビビっているような人は危ない。私なんか、待ち構え、迎え撃ち、散々こき下ろすことを趣味としているのだ。悪い奴を懲(こ)らしめるのは楽しい。