古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『空前の内需拡大バブルが始まる』増田俊男

『史上最大の株価急騰がやってくる!』増田俊男

 ・『空前の内需拡大バブルが始まる』増田俊男

『敗者の論理 勝者の法則』増田俊男
『日本経済大好況目前!』増田俊男
『日本大復活! アメリカを救う国家戦略が黄金の時代の扉をひらく』増田俊男
『大相場、目前!! これから株神話が始まる!』増田俊男


 増田俊男三昧である(笑)。

 ブッシュ大統領が今日のアメリカのすべての政策に関する決定権をもっているかというと、そうとはかぎらない。
 それどころか、今日のアメリカ政治の実態を知れば知るほど、大統領は「パブリック・フィギュア(Public Figure)=表向きの顔」の役を演じるに役者にすぎず、実際の政策提案や決定には「シンクタンク」が大きな影響を及ぼしていることがわかってくる。

 ワシントンDCの有力なシンクタンクは、政策決定にかかわる有力者や海外の有識者たちとの人脈づくりにもってこいの場である。それだけにシンクタンクに職を求める学識者は多く、世界中から優秀な人材が集まる。
 そして、世界の優秀な頭脳たちが互いの研究成果を発表し、活発に交流し、日夜議論を重ねている。その最終的な目的は、アメリカの国益を最大化するための政策を考案し、政府に提案することである。
 政府は数々の報告書や提案のなかから、アメリカの国益にとってもっとも優れたものを採用し、戦略と方針を決めていく。当然、競争は激しくなる。
 競争力のある政策提案をするためには、より多くの資金を確保し、優秀な研究員を集めなければならない。
 シンクタンクの主な資金源は、ヘリテージやカーネギーのような財団からの助成金や、富豪や企業からの寄付金である。
 より多くの寄付金を集めるためには、政策採用実績を積み重ねるとともに、閣僚や高級官僚を政権に送り込んだり、マスメディアにも取り上げられるようにPRに力を入れ、政治的なプレゼンスを高めなければならない。
 アメリカのシンクタンクNPOであるが、単に税金を納めなくていいというだけで、実態は営利企業以上に創意工夫に富んだ活動を展開し、熾烈な競争をしている。近年では、シンクタンクに大手企業の経営者がヘッドハンティングされ、経営の効率化に着手する例も少なくないという。
 アメリカが世界最大の戦略国家であるのは、このような頭脳集団を競わせて、最高の政策、最高の実行プラン、最高の組閣人事、最高の大統領演説を採用してきたからである。

 いま中国各地で暴動が起きているが、これは経済成長の恩恵にあずかることができず、貧しい暮らしから抜け出せない人々の不満が抑えきれなくなっていることを示している。
 華僑向け通信の中国新聞社によると、中国の政策助言機関、全国政治協商会議の任玉嶺(にんぎょくれい)常務委員は、2005年に中国で起きた暴動などの抗議活動が8万7000件にのぼったことを明らかにしたという。
 任委員によると、このうち8万6000件は15人以上で組織された抗議活動で、抗議の大半は土地収用や地方当局幹部の腐敗などに対するものだという。
 2004年の暴動を含めた抗議活動は7万4000件(中国公安省発表)で、抗議件数は1993年から2003年にかけて毎年約17パーセントの割合で増えている。(中略)
 上海市民と貴州省の農民とのあいだには、一人当たりGDPにして15倍近い開きがある。これらの地域は、生活水準もまったく異なっている。
 上海の若いビジネスマンやOLが外資系の企業でバリバリ働き、パソコンや携帯電話を使いこなしているのに大して、貴州省では通信インフラの整備が遅れていて、まだ携帯電話はおろか固定電話もない生活をしている。集落のなかで比較的裕福な人たちがやっとテレビを買うぐらいの段階である。
 13億人も人口がいれば、貧富の差はあって当然かもしれないが、問題は貴州省の貧しい人たちがテレビで上海の豊かな人々の自由な暮らしぶりを目にするようになったということである。
 中国では、直轄市以外の地域に住む住民は、原則として居住地を自由に選択することはできない。だから、なおさら生活格差に対する不満が増幅され、各地で暴動の増加を招いている。

 とはいえ、選挙によって国民の代表が選ばれ、国民議会に約90人の女性議員が誕生した。これは、かつてのイラクでは考えられなかったことである。けっしてうまくはいってないが、イラクでは、とにかく民主国家の体制だけは整ったのである。
 にもかかわらず、イラクの治安が回復しないのは、そうなると困る勢力が存在するからである。イラクが安定し、自由な経済活動が発展すると、一番困るのは誰か――。
 サウジアラビアをはじめとする中東産油国は、「王朝型君主制」と呼ばれる政治体制をとっている。王族が主要な閣僚ポストを占めており、実質的な王族独裁制である。
 サウジアラビア経済は、国営の石油企業が石油を外国に売って稼ぐお金で成り立っている。そして、国民は石油の利益を政府から分配してもらうことで生活している。つまり、すべての経済活動が王族によって事実上コントロールされていて、国民の自由はないということである。
 サウジアラビアでは、女性は、国会議員になることはおろか、自分で自動車を運転して買い物に行くことさえできない。
 イラクでテロがなくなり、民主主義が確立され、経済が活性化して戦後の日本や韓国のように発展するようになったら、地続きのサウジアラビアの国民はイラク国民の自由なくらしや経済発展を目の当たりにすることになる。
 イラクでは、女性が自分で車を運転し、女性議員が議会で発言している――その様子をアウジャジーラのニュースで目にしたサウジアラビアの国民は、自分たちに自由がないことに気づき、王族に対する不満をもちはじめている。
 やがて王族が老いるマネーを独占し、国民の自由を奪い、すべての経済活動をコントロールしていることに対する批判と反動が高まるのは時間の問題である。
 国民の支持を得た反政府勢力がクーデターを起こしたら、王族は処刑か追放か、いずれにしても政権の座から引きずりおろされる。
 1980年代から1990年代初頭にかけて、旧ソ連と東ヨーロッパで共産党政権が崩壊したときと同じように、中東全域に民主化の波が押し寄せることになる。
 そうなっては困るから、中東産油国の王族たちは、テロリストに資金援助をしてイラクの治安回復を阻止しているのである。


増田俊男