古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

自分自身の草の根体験は改革への説得力をつける

 貴重な学習をさせてもらった日々であった。特に、貧村やスラムの視察より家族の一員としてホームステイをするのが好きだった。貧民の生活など知ろうともしない為政者を圧倒する目線や情報が、手に入るからだ。もちろん、政治の最前線だから、喧嘩の種は拾いきれないほどある。自分自身の草の根体験は、改革への説得力をつける。貧しさに喘ぐ株主、すなわち「我が家族と大勢の親類縁者」に励まされるから、権力者との闘いに尻込みをする暇などなかった。
 悪政が日常茶飯事な発展途上国の草の根で、稀に、世銀と同じ夢を一心に追うリーダーに出会うと、無上に嬉しくてよく泣いた。話や形は変わっても、皆それぞれのナディアを胸に抱いていた。ナディアが「正しいことを正しく行う」情熱を煽ぎ、情熱が信念の糧となり、ハートが頭と行動に繋がっていた。心身一体、常に一貫した言動だからこそ、民衆の信頼を受け、人々を鼓舞し、奮起していた。


【『国をつくるという仕事』西水美恵子〈にしみず・みえこ〉(英治出版、2009年)】


国をつくるという仕事