人間の虚栄心は死をも対象とすることができる

 仮に誰も死なないものとする。そうすれば、俺だけは死んでみせるぞといって死を企てる者がきっと出てくるに違いないと思う。人間の虚栄心は死をも対象とすることができるまでに大きい。そのような人間が虚栄的であることは何人も直ちに理解して嘲笑(ちょうしょう)するであろう。しかるに世の中にはこれに劣らぬ虚栄の出来事が多いことにひとは容易に気附かないのである。


【『人生論ノート』三木清創元社、1941年/新潮文庫、1954年)】


人生論ノート (新潮文庫)