古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

西田幾太郎の人生/『〈狐〉が選んだ入門書』山村修

 哲学者の西田幾多郎が、京都大学退職のおり、「回顧すれば、私の生涯は極めて簡単なものであった。その前半は黒板を前にして坐した、その後半は黒板を後にして立った。黒板に向かって一回転をなしたといえば、それで私の伝記は尽きるのである」と語っています。


【『〈狐〉が選んだ入門書』山村修ちくま新書、2006年)】


 痺れるね〜。たまらん。人生を簡潔にスケッチする様が、ハードボイルドの領域に達している。極端なまでに削ぎ落とされた世界を想像せずにはいられない。圧倒的な余韻をはらんでいる。西田幾太郎が描く自伝は、膨大な「空白」で描かれている。我々は、その潔さに頭を垂れるのだ。



「或教授の退職の辞」/『西田幾多郎の思想』小坂国継