読める? 「七音」「雪月花」 響き優先、今時の名前
「永翔」「大生」「七音」「雪月花」と書いて、それぞれ「はるか」「ひろ」「どれみ」「せしる」と読む。いずれも実際に出生届が受理された名前だ。法律には読み仮名の規定がないうえ、親は音の響きと漢字の画数を重視する傾向だという。すぐに読めないような個性的な名前を持つ子どもたちは、これからも増えていくのだろうか。
富山県立山町の夫妻が今年2月、出生届に娘の名前を「稀星(きらら)」と書いた。町から「星で『らら』とは読めないと思うが、いいか」と再考を促された。出生届は現住所のほか、出生地や親の本籍地がある自治体に提出できる。夫妻は、出産した隣の富山市に出すと「親の意向を尊重する」とすぐに受理された。夫妻は「市販の名づけ辞典にあったものをそのまま使ったのに」と不思議がる。
出産を控えた母親を対象にした「たまごクラブ」(ベネッセコーポレーション)には半年に1回のペースで「季節のイメージ」などを参照する名づけ辞典が付く。紹介されるのは、原則として過去に2件以上受理された読者の実例だ。
「届け出が受理されるかは各自治体で判断が異なります」と、ただし書きを必ず入れる。
名前に使える文字は戸籍法施行規則で定められているが、読み方のルールは触れられていない。出生届に読みを記すのは住民票の処理が目的で、戸籍に読み方まで書く必要はないためだ。法務省は「高」と書いて「ひくい」と読ませるといった、およそ連想できない読みの場合は再考を促すよう自治体に求めているが、強制力はない。
06年度に窓口で5000件を超える出生届を受理した東京都大田区は「使える文字かどうかのチェックが第一。文字が使えるものであれば、親の意向を原則尊重する」と話す。「稀星」を受理した富山市も「『悪魔ちゃん』のように子どもの将来に不利益になりそうでなければ受理する」という立場だ。
一方、再考を促した立山町は「法務省が求めているし、辞書にない読みであれば、親に必ず確認するべきだ」と話す。 ベネッセ・たまひよ部は、「縁起のいい画数」に加え、「響きのいい音」にしたい親の思いが、本来の読み方にはない漢字をあてるケースが出てくる一因だと分析する。
「稀星」の場合も、「きらら」という響きがいいと夫が希望し、呼び方がまず決まった。漢字はその後、縁起のいい画数を名づけ辞典から探したという。
同部の名づけ担当・石原竜也さんによると、「名前の読み・漢字ランキング」を見て、「読みは人気のあるものに、漢字はあまり使われない字を使おう」と考える親も多い。「名前は子どもへの最初のプレゼント。唯一無二のものにしたいとの思いが強いのでは」
「オーダーメード」で名づけをする会社もある。97年に創業した日本育児研究社(大阪市)は、インターネットや電話で受け付け、「名字に合う画数の名前」などをリストアップ、冊子にまとめて提供している。これまでに約23万件の利用があったという。
珍しい名前で困ることはないのだろうか。
「日本の漢字」の著書がある笹原宏之・早稲田大教授(日本語学)は、「なまぐさい」の意味を持つ「腥」を使いたがる親がいると知り、驚いた。「夜空に輝く月と星だからロマンチックだと感じてしまうのだろう。意味を考えず、字面のイメージで使おうとする親が増えているのではないか」と警鐘を鳴らす。
「日本語練習帳」などの著書で知られる国語学者の大野晋さんは「漢字教育が衰退し、漢字の意味を深く考えない人が増えているのではないか。日本語全体がカタカナ化、英語化しているいまの流れの一つと言えるだろう」と話している。
奇をてらった名前が、個性であると勘違いしている親御さんが多いようだ。そういや、「悪魔」という名前をつけようとした親がおりましたな。
20年ほど前から、へんちくりんな名前が目立ち始めた。いずれも漫画の主人公からとったものが多かった。「元気」とか、「翔」の類いである(笑)。何はともあれ、発想の貧しさに目を覆いたくなる。
東アジアで生まれた漢字は、農耕文化に支えられている。石川九楊氏に至っては、筆=鍬であるとし、ワープロ文字を拒絶しているほどだ。
その文字の意味も知らずに、雰囲気やイメージだけで名前をつけられる子供は、たまったもんじゃない。
1997年のアンケート調査では、「援助交際を一度でもしたことがある」と答えた女子高生は5%だった。彼女達は既に母親になっていてもおかしくない世代である。
どうも、子供がペット化しているような気がしてならない。