古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『ミリオンダラー・ベイビー』


 嫌な映画である。私はこの作品の噂を聞いてラストシーンを完全に予想できた。ボクシングのサクセス・ストーリーと思わせておいて、かような展開にするたあ、あこぎが過ぎるんじゃあねえか?


 だがその私ですらマギーにつけられたリングネーム「モ・クシュラ」の意味を知った時、涙を禁じ得なかった。


 全く面白味に欠け、観客に対するサービス精神はゼロ。これは映画版“アメリ自然主義文学”である。


 フランキー(クリント・イーストウッド)は毎日教会のミサへ足を運び、牧師を挑発するような質問を投げ続ける。


 この作品のテーマは、神に抗い続ける男と、トレーナーに父の愛を求めた女のドラマであろう。二人は神が与えた運命を拒絶した。どこにいるのかわからない神にすがるよりも、彼等は目の前にいる互いを信じた。それはまるで、イエスとマリアの立場を逆転させたような関係と化している。


 しかし見終えた瞬間、全てが大いなる運命だったかのように感じてしまうのだ。


 ああ、嫌な映画だ(笑)。