古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『ドク・ソルジャー 白い戦場』


 1992年アメリカ作品。日本では未公開。


 大ヒットした『24 TWENTY FOUR』のキーファー・サザーランドの顔があったので借りてきた。


 舞台は退役軍人病院。戦地で負傷した兵士や、後遺症に苦しむ人々が集まっている。予算が削られ苦しい経営を強いられている病院は、患者を人間扱いすることなく入院患者を追い出す方針に貫かれていた。病院内で政治を行う院長と若き医師達が戦う。インチキ臭いタイトルに騙(だま)されることなかれ。こいつあ傑作だ。


 荒唐無稽な展開に思わず笑いを禁じ得ない。この作品は“コメディー”として見るのが正しい。だがハチャメチャなストーリーを骨太なテーマがしっかりと支えている。


 個性的な医師や看護婦、果ては患者達に囲まれ、ピーターは成長を遂げてゆく。


 スピーディなストーリー展開に加え、印象深いシーンがたくさんある。


 若き医師達は官僚主義と戦う。最初は戸惑いながら、「自分の経歴に傷をつけたくない」という理由で彼等と行動を共にしなかったピーターだったが、院長の汚いやり方を知り、遂に立ち上がった。


 患者の治療のためとはいえ次々と思いつく悪知恵がお見事。彼等は平然と病院の規則を踏みつけ、犯罪行為を正当化する。全く臆するところがないのは医師の使命に生ききっているからだった。しかし権力者はもっと狡猾だった。


 スタージェスが病院を追い出された。ピーターがスタージェスの下(もと)へ走り、連れ戻す。そしてここから青年医師達と看護婦・患者を巻き込んで革命が起こる。退役軍人達は重火器まで用意した。


 アメリカの自由の気風が横溢していて実に小気味がいい。


 ラストシーンで理想を手放さなかった青年達は遂に勝利を手中にした。「規則を犯すか、規則に犯されるかだ」と語ったスタージェスは人間を隷属させる一切と戦った。彼等の勝利は人間主義の勝利だった。