古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

先物営業マンの哀れ

 昨年暮れに、三貴商事という会社から電話があった。私の本業も営業なので、電話や訪問販売が来れば、必ず話を聞くようにしている。どんな手練手管を使ってきても、私が買うことは、まずない。そもそも、古本屋に投資の話を持ち掛けるのが間違い(笑)。


 その後も、モンマと名乗る営業マンは電話をしてきた。電話を切る際に、必ず大きな声で「わたくし、モンマと申します。モンマと申しますので忘れないで下さい」と繰り返す。使い古された手法だ。挙げ句の果てに昨日、私の家にまで押し掛けてきた。小一時間ほど、営業について説教をしておいた(笑)。その要旨は、「見込み客の見極め方が甘過ぎる」という一点に尽きた。


 一部上場企業の社員である肩書きにしがみついてるだけのサラリーマンだった。「トウモロコシは当たります」を連発し、薔薇色に満ちた投資の世界を語っていたが、この私を篭絡(ろうらく)できるほどの腕は持ち合わせてなかった。


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 手痛いしっぺ返しにあって、少しは懲(こ)りたかと思いきや、今朝、また電話があった。受話器の向こうで「トウモロコシ、トウモロコシ」の連発が始まった。「何度も同じ話をさせるな! 投資に興味はない!」、「はい、昨日もそのように伺いました。でも、社長、トウモロコシの値段がですね――」、「オウ、好い加減にしやがれ!」と言って私は受話器を叩きつけた。


 直ぐさま、ベルが鳴った。「貴様、投資に興味がないと言ってるのを、きちんと聞いてるのか?」、「はい、皆さん、最初はそう仰るんです。でも、トウモロコシが」、「お前な、話が噛み合ってないことにすら気づいてないようだな。若造、大概にしておけよ。会社に直接、殴り込みを掛けてやろうか?」。営業マンは相手を間違えた。私は、他人にプレッシャーを掛けることに抜きん出た能力を発揮するのだ。


 最後の電話で彼は泣き落としに出た。だがそれは、営業上の戦略からではなくして、課せられたノルマのためだった。金を稼ぐためにやっているならまだしも、上司に尻を叩かれて何でもやってのけるような手合いなのだろう。上場企業だから、それなりの給料をもらっているとは思うが、仕事のために、自分の人間性をあっさりと否定してしまう真似をする青年が、何とも哀れで仕方がない。